患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「どの禁煙補助薬を選べばいい?」 喫煙と禁煙が健康にもたらす影響 市販の禁煙補助薬 ニコチン置換療法による禁煙の成功割合 長期的な有効性はどうなの? ニコチン置換療法の有害事象リスク 妊娠中のニコチン製剤 一気にやめるか、徐々に本数を減らすか 結局のところどうするか 今回出てくるOTCは・・・ シガノンCQ1透明パッチ(大正製薬株式会社)、シガノンCQ2透明パッチ(大正製薬株式会社)、ニコチネルパッチ10(グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社)、ニコチネルパッチ20(グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社)、ニコチネル(グラクソ・スミスクライン・コンシューマー・ヘルスケア・ジャパン株式会社)、ニコレット(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社) ニコチン置換療法の有害事象リスク バレニクリンでは心血管疾患リスクの増加が示唆17)されていましたが、近年の研究ではそれほど明確なリスク上昇は示されていません18,19,20)。各種禁煙補助薬の心血管有害事象を検討した63研究(解析対象30,508例)のネットワークメタ分析21)では、主要な心血管イベントに関してはニコチン置換療法、バレニクリンいずれも、プラセボ比較で統計学的有意な上昇を示しませんでした。ところが、全心血管疾患では、ニコチン置換療法で2.3倍リスクが増加する(相対危険2.29 [95%CI 1.39~3.82])という結果でした。 禁煙が心血管疾患リスクを低下させることは明らかですが、狭心症や心筋梗塞などの既往があるハイリスク者に対しては、非薬物療法の考慮を含めて慎重に対応すべきかもしれません。ちなみに、医療用のニコチンパッチ製剤であるニコチネルTTSの添付文書には、心筋梗塞、狭心症(異型狭心症等)の既往歴のある患者、又は狭心症で症状の安定している患者は、症状悪化の懸念から慎重投与となっています。 ニコチンパッチ製剤では皮膚の炎症やかぶれなどの局所有害事象が発生することもあり、治療継続が困難なケースではニコチンガム製剤を考慮できます。とはいえ、ニコチンガム製剤にも有害事象が全くないわけではありません。代表的な副作用として、口内・のどの刺激感、舌の荒れ、味の異常感、唾液増加、歯肉炎などが挙げられます。 また、ニコチンガムを口腔前庭の同一部位に長時間留置したことが原因とされる、薬剤性粘膜潰瘍の症例が報告22)されており、【表3】に示した用法用量を順守することが大切です。さらに、長期連用によりニコチン依存がニコチンガム製剤に引き継がれる恐れがあり、3カ月を超えて使用されているケースがないか十分な注意が必要です。ちなみに、ニコチンガム依存の治療にバレニクリンが有効であったとする報告23,24)があります。 妊娠中のニコチン製剤 ニコチンパッチについては妊娠中の禁煙補助療法に関する研究も多く報告されていますが、その有効性は優れているものとは言い難く25,26,27,28)また、製品添付文書中にも、妊婦、授乳婦又は妊娠していると思われる人には使用しないこととされており、妊娠女性に対してニコチン製剤は推奨できません。 ニコチンガムについても同様で、禁煙達成割合を上昇させず、出生時体重を増やし妊娠期間を延長させることが報告されています29)。妊娠中のニコチン置換療法は推奨できませんが、胎児への影響を考えると喫煙の継続も推奨できませんので、薬剤を使用せずに禁煙に導くアプローチが重要になってくるでしょう。 一気にやめるか、徐々に本数を減らすか 禁煙補助薬の限定的な効果について見てきましたが、薬剤以外に禁煙を成功に導く秘訣はないのでしょうか。禁煙の成功率に関して、直ちに禁煙する方法(一気にやめるか)と、徐々に禁煙する方法(少しずつ本数を減らすか)を比較したランダム化比較試験30) が報告されています。この研究では、697人の喫煙者が対象となり、直ちに禁煙する介入と、最初の1週間で50%、その後75%減量する介入に割り付けられました。なお、両群とも禁煙行動支援とニコチン置換療法を受けています。 その結果、4週後における禁煙達成割合は、徐々に禁煙した群で39.2%(95%CI 34.0〜44.4)、直ちに禁煙した群で49%(95%CI 43.8~54.2%)と、直ちに禁煙した方が20%ほど、統計学的にも意味のある水準で高いことが示されました(相対危険0.80[95%CI 0.66〜0.93])。6カ月後における禁煙達成割合でもほぼ同様の結果で、徐々に禁煙した群で15.5%(95%CI 12.0〜19.7)、直ちに禁煙した群で22.0%(95%CI 18.0〜26.6%)と、直ちに禁煙した方が29%、統計学的にも意味のある水準で高いことが示されています(相対危険0.71[95%CI 0.46~0.91])。 直ちに禁煙することは、徐々に禁煙することよりも優れている可能性が示唆されたわけですが、ランダム化比較試験10研究(解析対象3,760人)のメタ分析31)では、禁煙達成割合に明確な差を認めていません(相対危険0.94[95%CI 0.79~1.13])。結局のところ、禁煙を成功に導く大きな要因は禁煙に対する関心の度合いであって、徐々にやめるか、突然やめるかは、あまり大きな問題ではないのかもしれません。 ところで、ニコチン置換療法中の喫煙は、ニコチンの過量摂取につながりかねません。ニコチンパッチ製剤使用中は、原則的に喫煙やニコチンガムの併用は避けるべきです。禁煙後にニコチンパッチ製剤を使用する標準的な方法と、禁煙の4週前からニコチンパッチ製剤を使用する方法を比較しても、禁煙達成割合に有意な差を認めないとするランダム化比較試験32)も報告されており、ニコチンパッチを使用しながら徐々に禁煙する方法はお勧めできません。 結局のところどうするか ニコチンパッチ製剤とニコチンガム製剤、どちらがより禁煙を成功させるか、という問いに対しては【表5】に示したとおり、それほど大きな差はない、というのが妥当な答えだと思います。どちらの製剤にも局所有害事象が起こり得ますので、お客さんの好みや状況に合わせて選択すれば良いでしょう。 また、循環器疾患の治療を受けているかどうか、過去に循環器疾患の既往があるかどうかについては確認しておく必要があります。特に心血管疾患ハイリスク患者では、禁煙はぜひとも勧めたいけれど、ニコチン置換療法の心血管リスクも軽視できません。製剤添付文書に書いてある通り、3カ月以内に心筋梗塞発作を起こしたことがある人、重度の狭心症、重度の不整脈を有する人では、補助薬を使わない禁煙指導が選択肢になります。 禁煙の成功は、禁煙指導の質と頻度に依存すると言っても過言ではありません。禁煙を成功させるに当たり、必ずしも禁煙補助薬が必要というわけではないのです。リスクとベネフィットを踏まえたうえで、どんな方法が最も受け入れ可能かを、お客さん個別に評価する必要があるでしょう。その際には、喫煙により起こり得る本人の健康への悪影響(【図1】や【表1】)だけでなく、受動喫煙による身近な人への健康被害についても考慮するべきです。受動喫煙であっても肺がんリスクは上昇することが、日本人を対象とした観察研究9件のメタ分析33) で示されています。また、受動喫煙がもたらす健康への悪影響は、特に小児で強い可能性があります34,35) さらに、居住地の社会的環境が喫煙・禁煙の状況と関連している可能性があります。日本人を対象としたコホート研究36)でも、居住不安定性の高い(住民の入れ替わりが激しい)地区の女性は喫煙しやすいという結果が報告されています。適切なカウンセリングのみならず、お客さんの生活環境なども含めた多面的なアプローチが肝要かもしれませんね。 【参考文献】1) J Epidemiol. 2008;18(6):251-64PMID: 190754982) BMJ.2012;345:e7093 PMID: 231003333) N Engl J Med. 2013 Jan 24;368(4):341-50. 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PMID: 25463913 【連載コンセプト】薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。 【プロフィール】 保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。 公式ブログ:思想的、疫学的、医療についてTwitter:@syuichiao89