患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「カサカサ乾燥肌にはどんな薬がイイですか?」 皮膚の保湿メカニズムと乾燥肌の原因 身近な健康問題、乾燥肌の有病割合は? 市販で購入できる乾燥肌治療のための保湿外用剤 乾燥肌に対する保湿外用剤の考え方 保湿外用剤、どれくらい塗布すればよいの? 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ 白色ワセリン(健栄製薬)/プロペトホーム(丸石製薬)/メンソレータムヘパソフトクリーム(ロート製薬)/アットノン(小林製薬)/ヘパソフトプラス(ロート製薬)/ウレパールプラスクリーム・ウレパールプラスローション/(大鵬薬品工業)/ケラチナミンコーワ(興和)/パスタロン(佐藤製薬) 調剤室のエアコンから生暖かい風が勢いよく吹き出ています。暖房の設定温度は26℃、風量は強風。調剤室の隅に置かれた加湿器はあまり役に立っていないようで、デジタル時計に搭載された湿度計は常に「LOW」を表示。もはや計測不能なほど圧倒的に水分が足りていないようです。そんな調剤室で、じっと自分の手を見つめる薬剤師のあなた......。 「カサカサしている」 そう小声でつぶやいたとき、投薬カウンターの向こう側から、女性のお客さんが声をかけてきました。 「保湿クリーム、何かいいのはありますか?」 そう、お肌の潤いが消えかかっているこの時期にこそ、保湿クリームは必需品なのです。すぐさま調剤室を抜け、OTC医薬品の売り場を案内するあなた。ところが、外用薬コーナーはいつの間にか配置替えされている様子。いつもは仕入れていないはずの、さまざまな保湿外用剤が所狭しと積み上げられています。 ――こ、これは本社の販促戦略かっ! 圧倒的な商品在庫を前に、しばし立ちすくんでしまいました。 皮膚の保湿メカニズムと乾燥肌の原因 皮膚の総面積は成人で1.5~2㎡ともいわれ、体重の約15%を占める最大の臓器です1)。皮膚は表面から表皮、真皮、皮下組織の3層に分かれており、表皮はさらに、①角層②透明層(手のひらと足裏のみ)③顆粒層④有棘層⑤基底層―に分かれています。 表皮の最も内側にある基底層では、細胞分裂によりケラチノサイト(角化細胞)が生成されています。ケラチノサイトは、後から分裂する細胞に徐々に押し上げられて角層に達し、角層細胞に変化します。体の部位や環境などによっても異なりますが、およそ2週間かけて角層の最表層に到達し、少しずつ自然に剥がれ落ちていきます。表皮におけるこの転換サイクルをターンオーバーと呼びます2)。 角層は表皮の最表面にあり、ほこりなどの異物や細菌が皮膚表面から体内へ侵入するのを防ぐバリア機能と、体内の水分が体外に過剰に蒸散するのを防ぎ、乾燥から身体を守る保湿機能を担っています3)。表皮における保湿メカニズムとしては ①皮脂腺から分泌される皮脂によって形成される皮脂膜②天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor;NMF)③角層細胞間に広がる脂質層―の3つが重要です4, 5)。 皮脂膜は皮膚の表面で角層の乾燥を防ぎ、角層に水分を貯留すると考えられています。NMFは主にアミノ酸類、ピロリドンカルボン酸(PCA)、ウロカニン酸、乳酸などの有機酸、尿素などの成分で構成されており、表皮における水分保持に寄与しています。また、脂質層は体内からの水分蒸散を抑えるとともにNMFの細胞外への流失を防ぎ、角層の保湿維持に関わっています。したがって、角層における成分組成バランスの崩壊は、皮膚バリア機能の乱れや皮膚の乾燥につながります6)。 その他にも、遺伝的要因や、加齢に伴う細胞内脂質の減少、季節変化に伴う環境中の相対湿度の低下、界面活性剤など化学物質との接触による外因性刺激も乾燥肌の原因となります7~12)。 また、皮膚の乾燥状態は、寒冷ストレス後の皮膚温度の回復率と関連するとの報告があります13)。体温が低下すると、抹消末梢循環不全による表皮の保湿環境悪化が懸念されます。皮膚温度の回復が遅延することは、乾燥肌を助長する一つの原因なのかもしれません。 身近な健康問題、乾燥肌の有病割合は? 医師が推奨する皮膚科用OTC医薬品の中で、保湿剤は、ヒドロコルチゾン(27.6%)、抗菌薬(23.4%)に次いで、3番目に多い(13.4%)という米国の調査が報告されています14)。乾燥肌は、症状に程度の差はあれど、多くの人が経験するとても身近な健康問題といえるでしょう。しかしながら、その有病割合に関するデータは限定的です。乾燥肌は、皮膚の炎症、痒み、不快感など多彩な症状をもたらしますが、症状がひどいときだけ病院を受診することが多く、その有病割合の推定が難しいのかもしれません。 そのような中、乾燥肌の有病割合に関するドイツの研究が2019年に報告されました15)。この研究は、343の企業に雇用されている4万8,630人(平均43.2歳、男性52.8%)が対象で、皮膚科専門医の診察により、乾燥肌の有病状況が調査されています。その結果、29.4%に当たる1万4,300人で皮膚の乾燥があると評価されました。この研究では乾燥肌の有病割合に性差を認めませんでしたが、加齢に伴い有病者が増加することも示されました【図1】。 【図1】乾燥肌の年齢別有病割合 (参考文献15より作成) 本研究ではまた、年齢と性を調整して危険因子を解析した結果、乾燥肌は腋窩の皮膚炎(オッズ比4.51、95%CI 2.70~7.54)、アトピー性の湿疹(同3.99、3.42~4.65)、乾燥性の湿疹(同2.96、2.40~3.65)、乾癬(同1.57、1.38~1.78)、足底疣贅(同1.42、1.26~1.60)、脂漏性皮膚炎(同1.28、1.16~1.42)、アトピー素因(同1.17、1.12~1.22)と有意に関連することが示されました。皮膚が乾燥する背景には生活環境だけでなく、原疾患の存在があることを忘れないようにしましょう。少なくとも乾癬やアトピー性皮膚炎の既往を確認し、状況に応じてかかりつけの医療機関の受診を勧めるとよいかもしれません。 同じく2019年に報告された、中高年集団を対象としたオランダの横断研究16)では、研究参加者5,547人[平均70歳(51~101歳)、女性57%]のうち、60%(95%CI 58〜61%)が乾燥肌(局所乾燥肌を含む)であったと報告されています。この研究で示された乾燥肌の主な危険因子は、年齢の他、女性、BMI、外気温、湿疹、化学療法を受けていることでした。他方で毎日のクリーム使用は局所乾燥肌の有病が低いことに関連していました。 次のページではカサカサ肌にお勧めの市販薬を比較!