患者さんに自信を持ってOTCをおすすめしたい!論文情報や患者さん対応など、薬剤師による薬剤師のためのOTC解説です。 今回のお話「カサカサ乾燥肌にはどんな薬がイイですか?」 皮膚の保湿メカニズムと乾燥肌の原因 身近な健康問題、乾燥肌の有病割合は? 市販で購入できる乾燥肌治療のための保湿外用剤 乾燥肌に対する保湿外用剤の考え方 保湿外用剤、どれくらい塗布すればよいの? 結局のところどうしますか? 今回出てくるOTCは・・・ 白色ワセリン(健栄製薬)/プロペトホーム(丸石製薬)/メンソレータムヘパソフトクリーム(ロート製薬)/アットノン(小林製薬)/ヘパソフトプラス(ロート製薬)/ウレパールプラスクリーム・ウレパールプラスローション/(大鵬薬品工業)/ケラチナミンコーワ(興和)/パスタロン(佐藤製薬) 市販で購入できる乾燥肌治療のための保湿外用剤 OTC医薬品として購入できる保湿剤について【表1】にまとめます。非医薬品では、ワセリンベースのニベア®クリーム、ビタミンEを配合したユースキン®、セラミドを配合したヒフミド®エッセンスクリーム、トリニティーライン®ジェルクリームなどさまざまな商品が販売されており、その価格帯も安価なものから高価なものまでバリエーションに富んでいます。なお、セラミドとは長鎖アミノアルコールと長鎖脂肪酸がアミド結合したもので、角層細胞における物質透過バリアを構成する主要な成分です6, 17)。 【表1】OTC医薬品として購入できる保湿外用剤 ∗OTC医薬品の尿素製剤は、目の周りや粘膜、創傷部、炎症部位には使用不可 (筆者作成) 乾燥肌に対する保湿外用剤の考え方 軽度の局所乾燥肌に対して保湿外用剤を塗布すると、多くの場合で明確な症状改善効果を得ることができます18)。また保湿外用剤の種類を問わず、皮膚の乾燥状態の改善、ならびに湿疹の重症度や瘙痒感の改善に効果が期待できます19)。痒みが強い場合には、ジフェンヒドラミンを配合した外用剤も考慮できるでしょう。なお、鎮痒薬については「虫刺されにはどんな痒み止めがイイですか?」も参照いただけましたら幸いです。保湿外用剤の使い分けについて、質の高い直接比較試験がほとんど報告されておらず20)、現段階ではあまり明確ではありませんが、【表1】に示した成分カテゴリごとに薬剤の特徴を簡単にまとめます。 ■ワセリン アトピー性皮膚炎に対する保湿剤の効果を検討したランダム化比較試験21)によれば、白色ワセリンは費用と効果の両面から優れた薬剤であることが示されています。この研究では2〜17歳のアトピー性皮膚炎患者39人が対象となりました。グリチルリチン酸配合クリーム(Atopiclair®)、セラミド配合クリーム(EpiCeram®)、ワセリンベースの保湿外用剤(Aquaphor HealingOintment®)の3群にランダムに割り付けられ、治療開始の7日目と21日目に皮膚症状の重症度が評価されています。 解析の結果、3群間において皮膚症状に差は認められませんでした。この研究では、ワセリンベースの保湿外用剤は他の外用剤と比較して47倍の費用対効果があると結論されています。軽度の局所乾燥肌であれば白色ワセリンやプロペトで様子を見るのは費用、効果の両面から合理的な選択といえるでしょう。ただしべたつきが気になるという方では他の保湿クリーム剤を試してみるとよいかもしれませんね。 ■ヘパリン類似物 ヘパリン類似物を含有した外用剤は保湿効果に優れていると考えられますが22)、ヘパリン類似物含有製剤であるヒルドイド®を白色ワセリンで2~4倍に希釈すると、有効成分の保湿効果が大幅に低下することが報告されており、両剤を併用する際には注意が必要です23)。 ■尿素 尿素10%を含有する保湿外用剤は、乾燥肌や手の炎症症状に効果的です24)。尿素を含有している市販の保湿外用剤には10%製剤の他、20%製剤もありますが、10%以下の低用量製剤では、保湿剤として、10%以上の高用量製剤では角質溶解作用を期待して使用することが一般的です25)。そのため20%製剤では、手足やかかとなど角質の厚い部位に用います。 保湿効果は決して弱くはありませんが、局所の刺激症状を引き起こすことがあり19,26)、特に尿素が高濃度で配合されている外用剤は注意が必要かもしれません。なお、OTCの尿素を含有した保湿外用剤は、目の周りや粘膜、創傷部、炎症部位には使用できません。 ■セラミド配合製剤(非医薬品) セラミド配合をうたう外用剤は医薬品ではありませんが、皮膚の水分量増加効果が期待できます27)。とはいえ前述したとおり、アトピー性皮膚炎患者における皮膚症状に対する有効性は、ワセリンベースの保湿外用剤やグリチルリチン酸配合クリームと大差ありません。効果に差があったとしてもごくわずかでしょう。セラミド配合クリームはワセリンと比べると値段も桁違いに高価です。増分の費用に見合う効果が得られる可能性はそれほど高くないように思います。 なお、水分の摂取量が少ない人では、水分摂取後に皮膚の水分量が増加する28)といわれており、環境中の相対湿度が低下する冬季では適度な水分摂取が肌の乾燥を防ぐ手段として有用かもしれません。またヒアルロン酸サプリメントの摂取で皮膚の水分量が増加し、乾燥肌の治療に有効である可能性も報告されています29)。実際的な皮膚症状をどの程度まで改善するかについてはあまり明確ではありませんが、保湿外用剤に追加する治療選択肢として考慮できるかもしれませんね。 保湿外用剤、どれくらい塗布すればよいの? 外用剤塗布量の目安として用いられる指標にFinger Tip Unit(FTU:フィンガーティップユニット)があります。外用剤のチューブから、成人の人差し指先端から第一関節までの長さを絞り出した量が1FTUで、約0.5gに相当します30,31)。ただし、この定義は軟膏の取り出し口の口径を 0.5 cm、人差し指の先端から第 1 関節部までの長さを 2.5 cm とした場合であり、製品の種類や指の長さの個人差などを考慮すると、あくまで目安と考えた方がよいでしょう。 身体の各部位と必要なFTUについて【表2】にまとめますが、手で1.2ということからも、割と多めに塗布することが十分な保湿効果を得るポイントとなるでしょう。このことはまた、白色ワセリンではかなりべたつくことが予想されます。費用効果に優れるワセリンではありますが、生活の質を低下させることもあり、お客さんの生活スタイルに合わせた薬剤選択が肝要です。 【表2】身体の各部位と必要なFTU (参考文献30より作成) 結局のところどうしますか? べとつきが気にならないようであれば、白色ワセリンはコスト、効果の両面で優れた薬剤です。就寝前に塗る、ティッシュで軽く抑えるなど、塗布方法を工夫することで、ある程度はべとつきを気にせず使用することができるでしょう。ワセリンベースの非医薬品保湿クリーム(ニベア®など)では、白色ワセリンほどべたつかず、持ち運びに便利なサイズや、デザイン性に優れた商品などバリエーションに富んでいるので積極的に考慮できるかもしれません。 塗布した際のべたつきがどうしても気になるようであれば、ヘパリン類似物含有した保湿外用剤は優先的に考慮できるでしょう。瘙痒感があるケースではジフェンヒドラミンを配合した保湿外用剤もおすすめできます。 尿素を含有した保湿外用剤は有効性に優れているとはいえ、局所の刺激など、有害事象のリスクも懸念されます。したがって、積極的にお勧めできる根拠は弱いように思います。ただ、かかとなど角質が厚い部位のケアに対しては考慮できるかもしれません。その際にはひび割れなどがないかどうかを確認しておくとよいでしょう。創傷部への使用は、一過性の刺激が強く出ることもあるので注意が必要です。 【参考文献/脚注】1) Nurs Times. 2003 Aug 5-11;99(31):46-8. 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PMID: 2567912 【連載コンセプト】薬剤師、登録販売者のためのOTC連載です。OTC医薬品に対する考え方、使い方について「実践的」に整理します。筆者のドラックストアでのバイト経験と、具体的な薬剤エビデンスに基づき、実際の患者にどうアプローチしていけばよいのか、ピットフォールなどを交えて解説していきます。 【プロフィール】 保険薬局勤務を経て、現在は病院薬剤師。NPO法人AHEADMAP共同代表。普段は論文を読みながら医師に対して処方提案などを行っていますが、薬剤師によるEBMの実践とその普及に関する活動もしています。 公式ブログ:思想的、疫学的、医療についてTwitter:@syuichiao89