医療機関同士の連携を円滑にするためには、患者様の行動や心理も考慮する必要があります。前回・前々回に引き続き、「なぜ患者様は大病院の外来を選びがちなのか?」という視点から、医療連携を妨げる要因を整理し、それを解決するための取り組みを紹介します。 長瀬 顕生(ながせ けんしょう) 株式会社Co-Buy 専務取締役 長年、医療機器ディーラーとして医療材料・器械・システムの販売、クリニック開業、病院移転新築計画等の業務に従事。2019年に株式会社Co-Buy専務取締役に就任。 各種セミナーでは診療報酬改定、医療DX、開業支援、などのテーマにて登壇。業種・規模を問わずブランディングを通しての経営安定化、患者様の安心感を提供できる施策、パッケージを提供するため日々、新しい協業企業と出会い、自身も含めブラッシュアップをしている。 患者視点で考える医療連携の課題と解決策 ここまで、医療機関同士の連携についてお話ししてきました。しかし、最も重要なのは「患者様が適切な医療を受けられる環境を作ること」です。実際、患者様の行動や心理が、医療連携のスムーズさに大きく影響を与えることがあります。 患者が病院外来を選びやすい理由 医療機関としては、クリニック・中小病院・大病院それぞれの役割を明確にし、適切な医療機関へ誘導したいと考えています。しかし、実際には患者様が直接大病院の外来を受診するケースが多く、これが医療連携を滞らせる原因の一つとなっています。その理由として、以下のような心理的要因が挙げられます。 1. 大病院の方が「安心感がある」 患者さんの多くは、「大病院の方が医療機器が充実している」「専門医が多くいる」というイメージを持っています。そのため、ちょっとした体調不良でも「念のため大病院で診てもらおう」と考えがちです。 2. かかりつけ医よりも、治療を受けた病院を頼りたくなる 例えば、手術や高度な治療を受けた患者様は、「手術をしてくれた先生に今後も診てもらいたい」という気持ちを抱くことが多いです。そのため、術後のフォローもかかりつけ医ではなく、大病院の外来を受診し続ける傾向があります。 3. かかりつけ医との連携が見えづらい 患者様の多くは、「この症状ならクリニック、これなら病院」といった明確な線引きがわからないことが多いです。特に、クリニックがどの病院と連携しているのかが見えづらいため、「どこへ行けばいいかわからない」となり、結果的に大病院を選ぶことになります。 では、こうした状況を改善し、患者様が適切な医療機関を選べるようにするにはどうすればよいのでしょうか? 患者の行動を変えるために必要なこと 1. 医療機関ごとの役割を明確に伝える 病院とクリニックがそれぞれどのような役割を担っているのかを、患者様に分かりやすく伝えることが大切です。例えば、病院の待合室や診察室で以下のような情報を提示することで、適切な受診行動を促すことができます。 「軽症の場合はまずクリニックへ」といった啓発ポスターの設置 クリニックのリストを病院の外来で配布 病院のHPに、連携クリニックの紹介ページを設ける また、診療時に医師が患者へ直接説明することも有効です。例えば、退院時に「この後の経過観察はかかりつけ医で対応します」と明確に伝えるだけでも、患者様の行動が変わる可能性があります。 2. .逆紹介をスムーズにする 前述の通り、患者様は一度大病院を受診すると、そのまま通い続けることが多いです。そこで、病院側がクリニックへ逆紹介する際に、患者様が納得できる仕組みを作ることが大切になります。例えば、逆紹介の際に以下のような説明をすることで、患者様の不安を軽減できます。 「この治療が終わったので、今後はかかりつけ医でフォローできます」 「病状が安定しているので、より身近な医療機関で継続的に診てもらいましょう」 また、紹介先のクリニックの情報を詳しく伝えることで、患者様が安心して受診できるようになります。具体的には、以下のような取り組みが有効です。 クリニックの医師の顔写真や診療内容を病院内で掲示 逆紹介時に、クリニックの連絡先や予約方法を記載した案内を渡す クリニック側での診療内容を病院にフィードバックし、逆紹介を円滑にする 次回のランチタイム勉強会配信テーマ・視聴予約はこちら