アウトサイダーの視点

祝!医師デジタル大臣、「真の医療ビッグデータ」構築を

レセプトデータベースは廃棄すべき

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

始めに:「正確な医療ビッグデータ」は医療界にとって最重要課題

 待望の高市政権が誕生し、医師である松本尚氏がデジタル大臣に就任した。現場を知る医師が国のデジタル政策の司令塔に立つのは初めてであり、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の発展に大きな期待が寄せられている。

 私もこれを絶好の機会と捉えている。日本の「医療ビッグデータ(国家医療情報基盤)」が、極めて危うい方向に進みつつあるからである。いうまでもなく、「医療ビッグデータ」は日本の医療・創薬のバイブルとなるもので、「正確な医療ビッグデータの構築」は明日の医療界にとって最重要課題である。

 現在、「医療ビッグデータ」の基盤とされているのは、全国民の保険レセプト情報・特定健診情報を網羅している国策レセプトデータベースであるNational Database of Health Insurance Claims(NDB)である。しかし、国民皆保険下の日本のレセプト制度は、診療行為や投薬と適合する保険病名が付けられてさえいれば、診療報酬が支払われるという世界的に極めてユルい構造を持つ。欧米のように厳格な検証を受ける構造にはなっていない。

 結果、日本のレセプトは「医師による臨床情報」ではなく、「事務方(医事課)による請求書」となっている。その集積である「レセプトデータベース」が、診療経過や病態の詳細を反映する「臨床情報データベース」となりえないのは当然である。

 これが医療の実態を反映していると信じているのは一部の公衆衛生学者と統計学者だけで、臨床医であれば「実臨床」とは程遠いデータベースであることは誰もが認めるところである(関連記事「実臨床を反映しない日本の『実臨床研究』」)。

 このようなウソまみれデータベースを基盤に「医療ビッグデータ」を構築するのは極めて危険で、こんな代物が「国家医療情報基盤」となれば、日本の医療も創薬も間違いなく誤った方向に暴走してしまう。医師デジタル大臣が誕生した今こそ、ゼロベースで発想を転換すべき時である。

川口 浩(かわぐち ひろし)

社会医療法人社団蛍水会 名戸ヶ谷病院・整形外科顧問

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。2023年から現職。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は340編以上(総計impact factor=2,032:2023年7月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa Delta Awardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G. Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

川口 浩
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