疫学は公衆衛生の基礎であり集団と個人の健康課題克服に向け、研究対象も多岐にわたります。今回は日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用いた高齢者対象の研究を中心に、HPVワクチン接種後の副作用、便秘と乾癬重症化との関連についての報告など幅広く取材しました。 便秘が乾癬の重症化に関連? 乾癬は全身性の慢性炎症性皮膚疾患であり、発症には遺伝素因や環境因子が複雑に関与している。近年、乾癬患者に特徴的な細菌叢の変化が報告され、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)の関与が指摘されている。また、dysbiosisは便秘との関連も報告されているが、乾癬と便秘との関連は明らかでない。京都大学大学院社会健康医学系専攻医療疫学分野/皮膚科学の後藤和哉氏は、健康保険組合のレセプト・特定健診データなどで構成されるIQVIA Claimsデータベースを用い、便秘が乾癬の重症化に及ぼす影響を検討する縦断研究を実施。・・・ 「多様な症状」はHPVワクチン接種者特有の症状なのか? ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは接種後の副反応疑いとして、疼痛または運動障害を中心とするいわゆる「多様な症状」が報道された影響などから、ワクチン忌避の代表例として知られる。長崎大学病院臨床研究センター支援ユニットの川添百合香氏は、HPVワクチン評価の一助とするため、国内4自治体のリアルワールドデータを用いて10歳代のHPVワクチン非接種者における「多様な症状」と同様の症状(以下、同様症状)の有訴率を検討。・・・ 認知症予防効果が期待できるスポーツは? 高齢者が運動・スポーツ関係のグループへの参加によって得られる心理社会的な健康、フレイル予防効果は、趣味やボランティア、町内会といった他のグループへの参加と比べ大きいことが知られている。また、実践する運動・スポーツ種目ごとにQOLや手段的日常生活動作(IADL)、認知機能との関連の仕方が異なることも報告されているが、認知症との関連は明らかでない。・・・ 高齢者のゲーム利用、健康への影響は? 近年、高齢者の間でスマートフォンや家庭用ゲーム機を利用したデジタルゲームの人気が高まっている。デジタルゲームは認知的健康を促進するとの報告がある一方で、過剰な利用は身体活動や社会的活動の低下につながる可能性が指摘されている。千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門准教授の中込敦士氏は日本老年学的評価研究(JAGES)に参加した高齢者2,504例のデータを用い、高齢者のデジタルゲーム利用と健康やwell-beingとの関連を検討するアウトカムワイド分析を実施。・・・ 料理ができない高齢者は死亡リスクが高い? 高齢期には、配偶者やパートナーとの死別や子の独立などに伴い世帯構成が変化して独居となるケースが多く、自分で食事を用意する必要性も高まる。家庭での調理により野菜や果物の摂取量が増加し、食事の質向上につながることが報告されているが、調理技術が健康に及ぼす影響は明らかでない。東京科学大学大学院公衆衛生学分野講師の谷友香子氏は、2016年に日本老年学的評価研究(JAGES)に参加した高齢者1万647例を対象に調理技術と死亡との関連を検討。・・・ 2024年開催学会レポート一覧に戻る