糖尿病治療は、新規薬剤が多く上市されるなど大きく発展・変貌している領域の1つ。今回は、2型糖尿病患者で合併率が6割以上にも上る代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)における糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)のポテンシャルに関する発表の他、ミトコンドリア機能改善薬イメグリミンとインスリン導入延期との関連、重症低血糖症例の実態などを取材。最新の知見をお届けします。 CGMで解明!無自覚性低血糖の危険因子 重症低血糖はインスリンまたはSU薬を投与中の2型糖尿病患者などで好発し、発症者の5%が死亡を含む重篤な身体障害を来す。持続血糖モニタリング(CGM)は血糖に関する新たな指標を測定できることから、重症低血糖の実態解明および発症抑制に寄与することが期待されているが、いまだエビデンスは少ない。日本糖尿病学会の「第2次糖尿病治療に関連した重症低血糖調査委員会」の廣田勇士氏(神戸大学大学院糖尿病・内分泌内科学部門准教授)らは、重症低血糖高リスク2型糖尿病患者の実態解明を目的としたCGMによる多施設前向き観察研究を実施。「無自覚性低血糖の危険因子としてインスリン使用、重症低血糖の既往、自律神経障害の併存、高血圧の併存が抽出された」などの解析結果を報告した。・・・ SGLT2で悪性腫瘍発症リスクが低減 MASLD患者では、肝線維化が予後と関連すること、日本人における主な死因は大腸がんや膵がんなどの肝臓以外の悪性腫瘍であることが知られる。SGLT2阻害薬は、ALT改善効果や抗腫瘍効果を発揮するとされるが臨床的なエビデンスは限られる。久留米大学内科学講座消化器内科部門主任教授の川口巧氏は、大規模レセプトデータベースMDVを用いて2型糖尿病合併MASLD患者を対象にSGLT2阻害薬とDPP-4阻害薬の効果を後ろ向きに検討。「DPP-4阻害薬と比べ、SGLT2阻害薬は肝線維化の改善および肝外悪性腫瘍の発症リスクを低減することが明らかとなった」と第68回日本糖尿病学会(5月29~31日)で報告した。・・・ GLP-1はMASLDの予後改善に有用 MASLDの発症と進展には、インスリン抵抗性により惹起される代謝異常が関与している。インスリン抵抗性は動脈硬化を引き起こすため、MASLDの治療介入に際しては肝機能の改善に加え、体重減少と心代謝性危険因子の改善も考慮する必要がある。国立健康危機管理研究機構国立国府台医療センター副院長の栁内秀勝氏は、自身らが2型糖尿病患者を対象にデュラグルチドまたはセマグルチドと代謝パラメータとの関連を検討した後ろ向き研究を紹介しつつ、MASLD治療におけるGLP-1受容体作動薬の有用性について解説した。・・・ SGLT2 vs. SU薬、MASLD合併例への効果は? 金沢大学大学院内分泌・代謝内科学分野教授の篁俊成氏は、MASLD合併2型糖尿病患者を対象にSGLT2阻害薬トホグリフロジンとSU薬グリメピリドの効果を検討した第Ⅳ相RCTのデータを解析。「グリメピリドと比べ、トホグリフロジンは肝組織学的所見を有意に改善させた」と第68回日本糖尿病学会(5月29~31日)で報告した。・・・ イプラグリフロジン、FLI高値例で有用性が高い 2型糖尿病に高頻度で合併するMASLD。SGLT2阻害薬が有効とされる一方、DPP-4阻害薬の効果は確立されていない。新潟大学医歯学総合病院内分泌代謝内科/同大学大学院地域医療健康学講座特任准教授の北澤勝氏は、2型糖尿病患者を対象にSGLT2阻害薬イプラグリフロジンとDPP-4阻害薬シタグリプチンの有効性を検討したランダム化比較試験N-ISM Studyの事後解析を実施。脂肪肝指数(FLI)で定義した脂肪性肝疾患(SLD)の重症度に基づき比較した結果について、第68回日本糖尿病学会(5月29~31日)で報告した。・・・ 糖尿病罹病期間の長さが重症低血糖リスクに 糖尿病診療をめぐっては、重症低血糖の発症が心血管疾患などの合併症発症に関連するとの報告があるが、国内の全国規模のリアルワールドデータに基づくエビデンスはない。国立国際医療センター糖尿病情報センター長/第三糖尿病科医長の大杉満氏らは、J-DREAMSのデータを用いて重症低血糖発症の関連因子を検討する横断観察研究を実施。結果を第68回日本糖尿病学会(5月29~31日)で報告した。・・・ チルゼパチド、MASLD治療でも期待 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肥満や糖尿病などの代謝異常を背景に診断される脂肪性肝疾患で、特に2型糖尿病患者では合併率が約65%に上る。治療においては近年、インクレチン関連薬が注目されており、中でもGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドのMASLDおよび代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)に対する期待は大きい。横浜市立大学肝胆膵消化器病学/同大学病院国際臨床肝疾患センター准教授の米田正人氏は、国際共同第Ⅱ相ランダム化比較試験(RCT)SYNERGY-NASH(N Engl J Med 2024; 391: 299-310)および最新の事後解析に基づきMASLD/MASH治療におけるチルゼパチドの有用性を検討。・・・ イメグリミンでインスリン導入延期の可能性 ミトコンドリア機能改善薬イメグリミンは、インスリン分泌促進作用とインスリン抵抗性改善作用を併せ持ち、糖新生抑制などの膵外作用も期待される。菊池内科クリニック(前橋市)院長の菊池孝氏は、自施設でインスリン分泌能が低下した2型糖尿病患者にイメグリミンを投与し12カ月間追跡。「イメグリミン投与によりインスリン導入が先送りできる可能性が示唆された」と、第68回日本糖尿病学会(5月29~31日)で報告した。・・・ 2025年開催学会レポート一覧に戻る