来年(2026年)、創立100周年を迎える日本整形外科学会。今回の学会では、『100年プロジェクト』の取り組みの他、国内で広く行われている再生医療、多血小板血漿(PRP)療法に関する研究や高齢発症関節リウマチについての発表、希少がんの1つである軟部肉腫の治療成績報告など、幅広く取材しました。 腰椎椎体間固定術後のSSI診断に硬膜囊圧排所見が有用 腰椎椎体間固定術(PLIF/TLIF)後の手術部位感染(SSI)診断にはMRI検査による所見として、①びまん性椎体浮腫、②椎間板腔液体貯留、③スクリュー外側液体貯留-が有用であることが知られている。他方、硬膜囊周囲の液体貯留による硬膜囊圧排所見は硬膜外膿瘍に代表されるよう感染を示唆する所見と考えられるが、急性期の手術患者に対する診断能は十分に検討されていない。北海道大学大学院機能再生医学分野整形外科学教室の長谷川裕一氏は、PLIF/TLIF後のMRI所見とSSIとの関連を検討する症例対照研究を実施。「MRI検査による硬膜囊圧排所見がPLIF/TLIF後のSSI診断に有用であることを明らかにした」と報告した。・・・ 整形外科医はいつメスを置き、いつ引退するのか 昨年(2024年)4月に始動した医師の働き方改革に伴い、整形外科医の働き方が多様化する中、整形外科医はいつメスを置き、いつ引退しようと考えているのか。公立福生病院院長で整形外科医の吉田英彰氏は、日本整形外科勤務医会/日本臨床整形外科学会が実施したアンケート結果の詳報を第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で紹介した。・・・ MTX皮下注で急速関節破壊進行が抑制 RA患者ではMTXの経口薬と比べ、皮下注製剤は消化器症状が少ないとの報告があるが、経口薬からの切り替え例やX線による急速関節破壊(RRP)例に対するエビデンスは不足している。片山整形外科リウマチ科クリニック(北海道)院長の片山耕氏は、自施設でMTX経口薬抵抗性RA患者を対象にMTX皮下注を12カ月間投与し、有効性と安全性を検討。その結果「MTX皮下注は高用量での投与が可能で、MTX経口薬抵抗性RA患者における疾患活動性の改善に加え、RRPの進行抑制が示唆された」と第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で報告した。・・・ 膝OAへのPRP療法に「適応と限界」 変形性膝関節症(膝OA)に対する多血小板血漿(PRP)療法は、日本でも自由診療として多くの医療機関で実施されている。「再生医療」と位置付け、手術、保存療法とは異なる「第3の治療法」として期待する向きもあるが、順天堂大学運動器再生医学講座特任教授の齋田良知氏は、第98回日本整形外科学会(5月22~25日)において「保存療法の1つの選択肢と考えるのが妥当。全体の奏効率は約60%であり、適応と限界を考慮して治療選択すべき」との認識を示した。・・・ AYA世代に多い希少がん「胞巣状軟部肉腫」、現状明らかに 胞巣状軟部肉腫(ASPS)はまれだが、思春期・若年成人(AYA)世代に多く、予後不良な疾患である。岐阜大学整形外科講師の永野昭仁氏は、全国骨・軟部腫瘍登録データを用いて日本におけるASPSの疫学および治療成績を調査した結果を第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で報告した。・・・ 高齢発症関節リウマチにJAK阻害薬が有用 超高齢社会の進展に伴い、国内の高齢発症の関節リウマチ(LORA)患者は増加傾向にある。若年発症関節リウマチ(YORA)と比べ、LORAはIL-6がTNFαより優位であるなどサイトカインプロファイルが異なることが知られているが、IL-6阻害作用を有するJAK阻害薬の有用性に関するエビデンスは限られている。名古屋大学大学院運動・形態外科学整形外科学/リウマチ学講師の寺部健哉氏は、多施設前向きレジストリ研究TBCRのデータを用いてYORA群とLORA群におけるJAK阻害薬の有用性を検討し、結果を第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で報告した。・・・ 高齢発症関節リウマチをどう診るか 関節リウマチ(RA)治療が進歩する中、国内では超高齢化の進展に伴い高齢発症RA(LORA)が増加している。山形大学リハビリテーション部病院教授の髙窪祐弥氏は、LORAの特徴と治療上の注意点などについて第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で「LORAは、高齢化が進むわが国では今後も増加すると予想される。ロコモ、フレイル、サルコペニアのリスクや変形性関節症、骨粗鬆症などの併発率が高く、整形外科医の役割はますます重要となる」と強調した。・・・ 腹部CT画像で骨粗鬆症スクリーニング 骨折の予防には骨密度を測定し、早期に骨粗鬆症の治療を開始することが重要だが、多くの高齢者は骨折や痛みなどの症状が発現するまで医療機関を受診しないのが実情だ。一方、高齢者はさまざまな基礎疾患の精査目的で、CT検査を受ける機会が多い。小樽市立病院整形外科主任医療部長の佃幸憲氏は、人工知能(AI)を用いて腹部CT画像から骨密度を算出する試みについて、第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で発表。二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による測定値と強い相関が認められたことから、骨粗鬆症スクリーニングの手法として有用だと述べた。・・・ 骨粗鬆症性椎体骨折後の腰痛の危険因子は? 骨粗鬆症性椎体骨折(OVF)は保存治療が原則とされ、一般的に予後良好だが、遺残腰痛に悩まされる症例は少なくない。国立長寿医療研究センター整形外科部・脊椎外科医長の松井寛樹氏、同部の竹市陽介氏らは、自施設で入院保存治療を行ったOVF患者948例を1年間前向きに追跡し、遺残腰痛の危険因子を検討。結果を第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で報告した。・・・ 日整会、次の100年への挑戦を表明 日本整形外科学会は来年(2026年)創立100周年を迎え、2027年に第100回学術総会を開催する。九州大学整形外科学教室教授の中島康晴氏は第98回日本整形外科学会(5月22~25日)で理事長講演を行い、同学会100年の歴史を振り返るとともに、次の100年に向けたアクション「日整会100年プロジェクト」の概要を明らかにした。「運動器の健康を守り、健康寿命の延伸に資する」ことが同学会に課せられた時代の要請だという(同氏は講演前日の5月21日まで、4年にわたり同学会の理事長を務めた)。・・・ 2025年開催学会レポート一覧に戻る