阪神・淡路大震災から30年となる節目の年に、兵庫県神戸市で開催された第121回日本精神神経学会。今回は、新規抗うつ薬zuranoloneの第Ⅲ相試験結果の他、2050年の精神科患者数シミュレーション予測、性的逸脱行動に対する条件反射制御法に関する発表など、注目の演題をピックアップしました。 2050年には精神科の総患者数が100万人以上減 日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに漸減傾向にある。少子高齢化の進行は、精神科における総患者数や疾患構造にどのような影響を及ぼすのか。青山学院大学教育人間科学部教授/同大学保健管理センター所長の稲垣中氏は、人口動態統計などのデータに基づき表計算ソフトを用いて2050年までのシミュレーションを実施。精神科の総患者数について「今後、全体として100万人以上減少すると予測される」と第121回日本精神神経学会(6月19~21日)で報告した。・・・ 条件反射制御法、性的逸脱行動への効果は? 条件反射制御法(Conditioned Reflex Control Technique;CRCT)は、2006年に開発された比較的新しい治療技法であり、のぞき・盗撮、強制わいせつ、痴漢といった性的逸脱行動への有効性などに関するエビデンスは限られている。医療法人社団ほっとステーション大通公園メンタルクリニック(札幌市)精神保健福祉士の山本泰雄氏は、自施設および国立病院機構下総精神医療センターにおけるCRCT受療者を対象とした縦断観察研究を実施。結果を第121回日本精神神経学会(6月19~21日)で報告した。・・・ 秋・冬生まれで神経発達症群の受診が多い傾向 近年、神経発達症群に診断される患者は増加しており、特に就学前後に受診・診断されるケースが多い。他方、同学年でも最大12カ月の月齢差があり、成長期の児童では月齢差による精神的・身体的な発達程度の違いが無視できない。岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター児童精神科部長の柳澤尚実氏は、これらが集団での適応に影響を及ぼし、神経発達症群の受診および診断の有無に影響している可能性に着目。生まれ月による神経発達症群の受診者数の違いを検討したところ、春・夏生まれと比べ秋・冬生まれの受診者が多かったことを報告した。・・・ せん妄へのブロナンセリン貼付剤、使用状況は 日本では、せん妄に対する抗精神病薬の使用は原則、適応外使用となるが、2011年以降、一部保険審査上で認められるようになった。せん妄患者は全身状態が悪いため、内服や点滴の確保が困難な患者が多いが、非経口の第一世代抗精神病薬は錐体外路症状などが懸念される。そこで東京慈恵会医科大学精神医学講座の菅野博志氏らは、第二世代抗精神病薬かつ経皮吸収型のブロナンセリン貼付剤に着目。自施設における同薬の使用状況を調査し、その結果を第121回日本精神神経学会(6月19~21日)で報告した。・・・ 急増する盗撮、条件反射制御法の可能性は? 条件反射制御法(CRCT)は、パブロフの信号学説および条件反射学説に基づき、2006年に国立病院機構下総精神医療センターの平井愼二氏(当時)が中心となり開発。当初は物質使用障害に対して実施され、現在では病的賭博、盗撮などの性的逸脱行動に対しても適用される。医療法人社団ほっとステーション大通公園メンタルクリニック(札幌市)院長の長谷川直実氏は、近年増加傾向にある盗撮・のぞき行為に対するCRCTについて、自施設における実施状況や受療者の傾向、課題などを検討した結果を報告した。・・・ 遅発性ジスキネジア薬バルべナジン、安全性を確認 日本初の遅発性ジスキネジア治療薬バルベナジンの特定使用成績調査AKARIが実施されている。滋賀医科大学精神医学講座教授の尾関祐二氏は、同調査における患者背景、投与状況、安全性などについての中間集計結果を第121回日本精神神経学会(6月19~21日)で報告。「過去に報告されていない、新たな安全性の懸念は特定されなかった」と述べた。・・・ 新規抗うつ薬zuranolone、反復投与でも効果減弱せず 大うつ病性障害(MDD)は、早期の治療介入を必要とする深刻かつ脆弱性の高い精神疾患で、自殺の危険因子としても知られる。MDDの治療には抗うつ薬が使用されるが、効果発現までに数週間を要するケースが多いため、即効性が高く早期に症状を改善する薬剤が求められている。関西医科大学精神神経科学講座主任教授の加藤正樹氏は、新規抗うつ薬zuranoloneの第Ⅲ相検証試験における二重盲検パートおよび非盲検長期観察パートの結果を第121回日本精神神経学会(6月19~21日)で報告。「zuranoloneはうつ症状に対し早期改善効果を示し、単剤投与を反復した場合でも効果の減弱は認められなかった」と発表した。・・・ 2025年開催学会レポート一覧に戻る