第61回欧州糖尿病学会(EASD 2025)では、糖尿病治療の進歩を示す研究が多数発表されました。新たな選択肢として期待される経口GLP-1受容体作動薬や次世代配合薬の減量・血糖改善効果はもちろん、既存のSGLT2阻害薬についても、インスリン併用時の心保護効果や遺伝性糖尿病での有効性が報告されました。さらに、持続グルコースモニター(CGM)の活用をめぐっては、血糖変動を基盤とした新たな表現型分類の可能性が発表されました。明日の実臨床に直結する多様な成果を取材しました。 週1回のセマグルチドでMACEリスク減 持続性GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のセマグルチドおよびデュラグルチドは2型糖尿病患者の心血管(CV)リスクを低下させるとの報告があり、米国糖尿病学会(ADA)などのガイドラインではアテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)併存またはASCVD高リスクの2型糖尿病患者に対するGLP-1RA投与を推奨している。しかし現状、2剤を直接比較した研究はなく、間接比較においても一貫した結果が得られておらず、いずれを優先して選択すべきかは明らかでない。米国・Novo NordiskのXi Tan氏らはMedicareに登録された2006~22年のデータを対象に週1回投与のセマグルチドとデュラグルチドの有効性および安全性を比較する標的試験模倣研究を実施。その結果、「デュラグルチド群に比べ、セマグルチド群で有意に主要心血管イベント(MACE)リスクが低下していた」と欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で報告した。・・・ SGLT2+MRA、アジア集団でも好結果 慢性腎臓病(CKD)合併2型糖尿病の治療をめぐっては、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンと非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)フィネレノンの同時併用療法の有効性と安全性が報告されており、新たな選択肢として注目されているが、人種差の影響に関するエビデンスは少ない。米国・Richard L. Roudebush VA Medical Center/Indiana University School of MedicineのRajiv Agarwal氏らは、国際第Ⅱ相二重盲検ランダム化比較試験CONFIDENCEのサブ解析を実施しアジア人と欧米人における同療法の成績を比較。その結果、「アジア集団においても各単独療法に比べ、同時併用療法で有意な転帰改善が認められた」と欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で発表した。・・・ エンパ追加が若年発症顕性遺伝性糖尿病に有効 若年発症顕性遺伝性糖尿病(MODY、若年発症成人型糖尿病とも)の主な原因遺伝子は、GCK(MODY2)、HNF1A(MODY3)、HNF4A(MODY1)、HNF1B(MODY5)である。成人で多く見られるMODY3の標準治療はスルホニル尿素(SU)薬だが、低血糖および体重増量リスクが課題となっている。デンマーク・Steno Diabetes CenterのHenrik Maagensen氏らは、成人MODY3患者を対象にSGLT2阻害薬エンパグリフロジンの有効性と安全性を検討するプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験MOD3STを実施。その結果、プラセボ群と比べ、エンパグリフロジン群では持続グルコースモニター(CGM)で評価した血糖値※1および空腹時血糖(FPG)値が有意に低下し、低血糖などの有害事象の増加は認められなかったと欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で報告した。・・・ 血糖値スパイクにはGLP-1、暁現象にはSGLT2 近年の医療技術の進歩に伴い、糖尿病治療において持続グルコースモニター(CGM)はますます身近なものになっている。しかし、治療選択に関しては病因に基づく考え方が依然主流であり、CGMで測定した血糖変動(血糖トレンド)に基づく選択の妥当性についてはエビデンスが少ない。インド・Hind Institute of Medical SciencesのAnuj Maheshwari氏らは、機械学習モデルを用いて血糖トレンドに基づく糖尿病の新たな表現型分類を作成。解析の結果、「血糖値スパイクが顕著な集団ではGLP-1受容体作動薬による有意な改善が認められ、暁現象が見られる集団ではSGLT2阻害薬投与で有意な改善が見られた。血糖トレンドで第一選択を判断できる可能性が示された」と欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で発表した。・・・ rt-CGMで妊娠糖尿病の出産転帰が改善 妊娠糖尿病(GDM)は母児にさまざまな周産期合併症を引き起こし、有害転帰リスクを高める。国内外のガイドラインでは、GDM妊婦に対し血糖自己測定(SMBG)に基づく空腹時・食後血糖値の管理を推奨しているが、頻回の測定は負担が大きい。1型糖尿病の妊娠管理においては持続グルコースモニター(CGM)の有用性が示されているものの、2型糖尿病やGDMでのエビデンスは乏しい。オーストリア・Medical University of ViennaのTina Linder氏らは、GDM妊婦を対象にリアルタイムCGM(rt-CGM)を用いた血糖モニタリングによる産科転帰改善効果をSMBGと比較する非盲検多施設共同ランダム化比較試験GRACEを実施。SMBG群と比べ、rt-CGM群では在胎不当過大(LGA)児が有意に少なかったと欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で発表した。・・・ 次世代GLP-1RA、血糖指標を大幅に改善 次世代のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)として注目される、長時間作動型アミリン受容体作動薬cagrilintide 2.4mgとGLP-1RAセマグルチド2.4mgの固定用量配合薬(以下、CagriSema)。BMI 27以上の成人2型糖尿病患者を対象とした第Ⅲa相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験REDEFINE 2で、プラセボ群に対する有意な体重減量効果が示されている。米・AdventHealthのRichard Pratley氏らは、持続グルコースモニター(CGM)使用例におけるサブグループ解析を実施。その結果、体重減量達成レベルにかかわらず、CagriSema群では68週時における血糖指標の大幅な改善が認められたと欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で報告した。・・・ 心血管高リスク例にカナグリフロジンが有望 近年、SGLT2阻害薬をめぐっては心腎イベントリスクを低下させる可能性が報告されているが、インスリン併用例に対する心腎の保護効果については明らかでない。イタリア・University of PisaのMartina Chiriacò氏らはSGLT2阻害薬カナグリフロジン上乗せによる心腎イベントリスク低下効果を検討するため、CANVAS試験およびCREDENCE試験のデータを統合したpatient-level analysisを実施。その結果、「カナグリフロジンはインスリン投与に伴う心血管(CV)リスク上昇を有意に抑制していた」とEASD 2025(9月15~19日)で報告した。・・・ Orforglipron、長期に体重と心血管リスクが低減 摂食・飲水の制限なく1日1回の経口投与が可能な初のGLP-1受容体作動薬orforglipron。カナダ・McMaster UniversityのSean Wharton氏、サウジアラビア・Obesity, Endocrine, and Metabolism Center, King Fahad Medical CityのNasreen F. Alfaris氏らは欧州糖尿病学会(EASD 2025、9月15~19日)で、非糖尿病の肥満/過体重で体重関連合併症を有する成人を対象に同薬の有効性と安全性を検討する第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験ATTAIN-1の結果を発表。プラセボ群と比べ、orforglipron投与群では72週時における体重のベースラインからの減少率が有意に大きく、複数の心血管危険因子の改善を示したと報告した。・・・ 2025年開催学会レポート一覧に戻る