肥満症の分野は、減量・代謝改善手術や新たな薬物療法の登場に加え、日本肥満学会が今年(2025年)4月に新疾患概念「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome;FUS)」を発表するなど、大きな転換点を迎えています。今回の取材では、セマグルチドやチルゼパチドなど話題の薬物療法に関する発表に加え、「若年女性におけるやせと骨量」に焦点を当てた研究などをピックアップしました。 ゼップバウンド、日本人肥満例の健康関連QOLが改善 2型糖尿病を有しない日本人肥満患者を対象とした、GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(肥満症治療薬としての商品名ゼップバウンド)の国内第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化試験SURMOUNT-J(Lancet Diabetes Endocrinol 2025; 13: 384-396)では、生活習慣介入と組み合わせた同薬の72週間投与がおおむね良好な忍容性を示し、大幅な体重減少に加え複数の代謝および血糖パラメータの改善を示した。琉球大学大学院内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)教授の益崎裕章氏は、同試験の副次評価項目である健康関連(HR)QOLの結果について解説。「チルゼパチドは、日本人肥満例のHRQOLを改善することが示唆された」と第46回日本肥満学会・第43回日本肥満症治療学会(10月4~5日)で報告した。・・・ 肥満症で期待の新規GCG/GLP-1受容体二重作動薬 新規のグルカゴン(GCG)/グルカゴン様ペプチド(GLP)-1受容体二重作動薬survodutideは、肥満症および代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の治療薬として開発が進められている。日本肥満学会理事長(当時)で千葉大学学長の横手幸太郎氏は、第46回日本肥満学会・第43回日本肥満症治療学会(10月4~5日)で、日本人を対象に同薬の有効性と安全性を評価する第Ⅲ相二重盲検並行群間プラセボ対照ランダム化比較試験SYNCHRONIZE-JPの試験デザインおよび登録患者の背景を発表。「survodutideの有効性および安全性に関し、新たな知見がもたらされることが期待される」と報告した。・・・ 若年女性の痩せで、低骨量のリスク上昇 日本肥満学会は今年(2025年)4月、新たな疾患概念「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」を発表。国内で痩せ過ぎの女性が増加傾向にある現状に鑑み、低体重・低栄養のリスクに警鐘を鳴らしている。大阪医科薬科大学衛生学・公衆衛生学教授の玉置淳子氏は、日本人女性集団を対象とした骨粗鬆症コホート研究The Japanese Population-based Osteoporosis(JPOS)のデータを解析し、最大骨量期(20歳以上45歳未満)の女性における「痩せ(BMI 18.5未満)」と「骨量」との関連を検討。「初回調査時に痩せだった女性では、45歳未満での低骨量のリスク上昇との有意な関連が示された」と第46回日本肥満学会・第43回日本肥満症治療学会(10月4~5日)で報告した。・・・ ウゴービ、日本人肥満例でもMACEリスク減 糖尿病を有さない過体重(BMI 27以上)/肥満かつ心血管疾患(CVD)の既往がある成人を対象とした国際共同二重盲検並行群間ランダム化優越性試験SELECTの主解析では、主要心血管イベント(MACE:心血管死、心筋梗塞、脳卒中)リスクがプラセボ群と比べGLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名ウゴービ)群で有意に20%低減したことが示されている。国立健康危機管理研究機構糖尿病研究センター長の植木浩二郎氏は同試験のサブ解析を実施し、日本人集団におけるMACEリスク、代謝関連パラメータおよび安全性について全体集団との一貫性を検討。「日本人集団においてもセマグルチド群ではMACEリスクが低い傾向が示され、体重および代謝関連パラメータの改善傾向が認められた」と第46回日本肥満学会・第43回日本肥満症治療学会(10月4~5日)で報告した。・・・ 2025年開催学会レポート一覧に戻る