心臓病学の分野は、心不全治療薬のパラダイムシフトや心房細動に対する集学的治療の確立により大きな転換点を迎えています。今回は、急性心不全への初期対応、心房細動新規発症の危険因子、慢性心不全に対するSGLT2阻害薬の長期成績など、日々の臨床に結び付く研究をピックアップしました。 イバブラジンが心不全薬物療法の最適化に寄与する可能性 『心不全診療ガイドライン2025年改訂版』では、心不全増悪による入院患者への移行期管理としてガイドラインに基づく薬物療法(GDMT)の導入や、タイトレーションを可及的早期に実施すべきとしているが、忍容性の問題が障壁となりうる。そこで、防衛医科大学校循環器内科准教授の長友祐司氏は、多施設共同急性心不全レジストリデータを用いて、HCNチャネル遮断薬イバブラジンの処方とGDMTにおける治療薬の処方との関連性を検討。退院時の同薬処方がGDMTにおける治療薬の最適化に寄与する可能性が示されたと、第73回日本心臓病学会(9月19~21日)で発表した。・・・ 日本人でもブトリシランの有効性示す トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)に対するトランスサイレチン(TTR)の産生を抑制するRNA干渉(siRNA)薬ブトリシランの有効性がランダム化プラセボ対照第Ⅲ相試験HELIOS-Bで示された。慶應義塾大学循環器内科講師の遠藤仁氏らは、同試験に登録された日本人集団の結果を解析。「HELIOS-B試験において示された全死亡、心血管(CV)イベントなど全ての評価項目におけるブトリシランの有効性は日本人集団においても明らかだった」と第73回日本心臓病学会(9月19~21日)で報告した。・・・ がんは心房細動発症の危険因子 心房細動(AF)新規発症の危険因子をめぐっては、多くのコホート研究で検討されているものの、一貫したエビデンスは得られていない。日本医科大学多摩永山病院循環器内科部長で東京都多摩市医師会会員の小谷英太郎氏は、多摩市の国民健康保険加入者を対象にAF新規発症の危険因子を検討。「既知の危険因子に加え、新たに有意な危険因子としてがんが抽出された」と第73回日本心臓病学会(9月19~21日)で報告した。・・・ 急性心不全の初期対応、うっ血の早期改善が鍵 日本では、急性心不全患者に対する利尿薬静注後の随時尿検査における尿中ナトリウム濃度(UNa)を指標とした治療戦略の有用性は確立されていない。春日井市民病院(愛知県)循環器内科主任部長の小栗光俊氏は、急性非代償性心不全(ADHF)におけるUNaに基づく治療戦略の有用性を前向きに検討。「UNaに基づく治療戦略は実臨床で実装可能であり、初期対応ではうっ血の早期改善が鍵となる」と第73回日本心臓病学会(9月19~21日)で報告した。・・・ 2025年開催学会レポート一覧に戻る