医者がもうかれば国民が健康になる?

「腰部脊柱管狭窄症」と「国産コロナワクチンの挫折」から考える

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:臨床現場のアンメットニーズ、腰部脊柱管狭窄症の腰痛

 この連載について、私は整形外科関連の話題で書くように命を受けている。しかし、多分野にまたがる読者の先生方の興味を引く整形外科関連の論文には限界がある。一生懸命に書いてアクセスが伸びないのはビミョーに悲しい。そこで、悪魔の誘惑に負けてしまい、素人の分際で「コロナネタ」を投稿して、それでもありがたいことに掲載してもらっている(結果、案の定、炎上はするが)。

 しかし、いくら「人の好意は甘んじて受ける」のが生活信条の私でも、これ以上調子こいて担当編集者さんに迷惑をかけるのは本意ではない。というわけで、今回は実は「皇室ネタ」を書きたくて仕方がないのだがグッと抑えて、整形外科の中でも患者が多く社会的注目度も高い「腰部脊柱管狭窄症」の話題でスタートする。

腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021 改訂第2版』が今年(2021年)5月に刊行された。腰部脊柱管狭窄症の診断基準としては、次の3項目が挙げられている。

① 下肢の疼痛や痺れを有し、これらの症状は立位や歩行の持続によって出現・増悪(間欠跛行)、前屈や坐位で軽減する

② MRIなどの画像でこの下肢症状を裏付ける変性狭窄所見が腰椎に存在する

③ 腰痛の有無は問わない

 この中で、2011年の初版から改訂されたのは③で、初版の「歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する」が「腰痛の有無は問わない」と変更されている。根拠として、腰痛の定義がマチマチであること、脊柱管狭窄に起因する腰痛のメカニズムが解明されていないことが挙げられている。

 しかしながら臨床現場の感覚としては、腰部脊柱管狭窄症の患者では、下肢症状よりも腰痛を主訴とするケースが少なくない。そして、腰痛が手術による神経除圧で改善することもよく経験する。どのような患者の腰痛が脊柱管狭窄に起因するのか、除圧術によって改善するのか、という情報は、まさに現場のアンメットニーズである。

 今回紹介するのは、ガイドライン第2版作成において指揮を取られた策定委員長の川上守氏(和歌山県立医科大学名誉教授)のグループからの論文である(Spine J 2021年9月30日オンライン版)。

川口 浩(かわぐち ひろし)

1985年、東京大学医学部医学科卒業。同大学整形外科助手、講師を経て2004年に助教授(2007年から准教授)。2013年、JCHO東京新宿メディカルセンター脊椎脊髄センター・センター長。2019年、東京脳神経センター・整形外科脊椎外科部長。臨床の専門は脊椎外科、基礎研究の専門は骨・軟骨の分子生物学で、臨床応用を目指した先端研究に従事している。Peer-reviewed英文原著論文は300編以上(総計impact factor=1,643:2019年6月現在)。2009年、米国整形外科学会(AAOS)の最高賞Kappa DeltaAwardをアジアで初めて受賞。2011年、米国骨代謝学会(ASBMR)のトランスレーショナルリサーチ最高賞Lawrence G.Raisz Award受賞。座右の銘は「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」。したがって、日本の整形外科の「大樹」も「長いもの」も、公正で厳然としたものであることを願っている。

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