肥満の発生機序をめぐる新旧仮説を徹底分析

国際ワークショップの議論を踏まえて

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

ワークショップの背景:エネルギーバランスモデルvs. 糖質-インスリンモデル

 世界的に肥満の増加が問題となっている(N Engl J Med 2017; 377: 13-27)。また、糖尿病の増加も問題となっている(Diabetes Res Clin Pract 2022; 183: 109119)。こうした現象が生じる機序として、長らく信じられてきたのがエネルギーバランスモデル(Energy Balance Model: EBM)である。「摂取エネルギー>消費エネルギーが肥満の原因であり、肥満がさまざまな生活習慣病の根にある」とする仮説で、人々の摂取エネルギーが増えてしまったのは食品業界や飲食業界の宣伝広告などによる過剰な刺激によって食欲が増幅されたからであり、消費エネルギーが減ってしまったのはモータリゼーションの発達で歩数をはじめとする身体活動量が落ちたからだとする考え方である。

 これに対して、米・ハーバード大学のLudwigらが提唱したのが糖質-インスリンモデル(Carbohydrate Insulin Model: CIM)であり、「高糖質摂取などによる食後高血糖とその後の急峻な血糖下降が空腹感(飢餓感)をもたらし、結果としてエネルギー摂取が過剰になる」という仮説である(関連記事「真逆の新肥満理論『糖質-インスリンモデル』」、「新肥満理論『糖質-インスリンモデル』の現況」)。もちろん、「摂取エネルギー>消費エネルギー」で肥満は生じるが、そのアンバランスの根に食後高血糖が存在するという考え方である。

 世界の肥満学の中では、この2つの仮説が、肥満症パンデミックを説明する異なる理論として認識されているようであり、2023年9月11~12日にデンマーク・コペンハーゲンで国際ワークショップが開催されていたらしい。その議論の内容が論文化されたので、私の感想も交えてご紹介したい(Nat Metab 2024; 6: 1856-1865)。

 なお、このワークショップの目的は、どちらの理論が正しいのかを決するというものではなく、①用語を定義する、②それぞれのモデルの構造を詳細に記述し、肥満の発生機序と因果関係の道筋を重ねて示す、③体重増加の要因として提唱されている因果関係の重要性について議論する、④解明されるべき重要な科学的な疑問についてブレインストーミングを行う、⑤関連する仮説を検証するために、適切な実験を設計する際の一般的な原則を概説する―ことであったという。

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