ステミラック注に見る再生医療の「暗雲」 高額療養費の浪費と社会的混乱 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする 研究の背景:Natureアジア太平洋特派員David Cyranoski氏による警鐘が現実のものに 「国家プロジェクト」の大義名分の下、10年以上も患者と国民を巻き込んで暴走してきた「日本の再生医療」に暗雲が立ち込めてきた。長年にわたってNatureやScienceが批判してきた「再生医療早期承認制度」によって仮承認(早期承認)を受けて臨床試験を行ってきた再生医療等製品であるハートシート(重症心不全、テルモ)とコラテジェン(慢性動脈閉塞症、アンジェス)の本承認が昨年(2024年)6月と7月に相次いで見送られ、両製剤は市場から撤退した。 この再生医療早期承認制度では、対照群のない数例の臨床試験データによって有効性が「推定」されただけで仮承認が与えられる。最大の問題は、本承認前のこの仮承認の段階から公的医療保険が適用される、すなわち本承認までに本来企業が負担すべき臨床試験の経費が患者と国民に押し付けられることである(関連記事「『日本の再生医療に暗雲』と世界に告発」)。 これまでに同制度によって仮承認された再生医療等製品(薬価)は、ハートシート(約1,500万円)、コラテジェン(約120~180万円)、ステミラック注(脊髄損傷、ニプロ:約1,500万円)、デリタクト(悪性神経膠腫、第一三共:約850万円)の4製品である。当然、これらの医療費のほとんどは、最近話題の「高額療養費」で賄われることになる。 ハートシートの本承認が否決された審議結果報告書によると、主要評価項目の心臓疾患関連死は対照群と有意差を示さなかったどころか、ハートシート群(49例)の対照群に対するハザード比は1.9である。すなわち、患者は8年間にわたって2倍近くも命の危険にさらされ続け、それに対して7億円以上(1,500万円×49例)の「高額療養費」が浪費されたことになる。 今回紹介するのは、最近オンライン公開された「Dark clouds looming over regenerative medicine in Japan(暗雲が立ち込めてきた日本の再生医療)」というタイトルの私自身の論文である(Stem Cells Dev 2025年3月6日オンライン版)。 そもそも本論文の骨子は、2つの再生医療等製品が市場撤退した直後の昨年8月に、Nature Newsの取材を受けた際の内容を基に執筆したものである。本来であれば、Natureのアジア太平洋特派員として10年以上にわたり日本の再生医療に対する過度な規制緩和を厳しく批判してきたDavid Cyranoski氏(Nat Med 2013; 19: 510、Nature 2019; 565: 544-545、Nature 2019; 573: 482-485)が、Nature誌上でこの問題を取り上げるべきであった。彼は、再生医療早期承認制度が「効果のない再生医療製品が日本国内に溢れる恐れ」を生む、と警鐘を鳴らし続けてきた。 しかし、Cyranoski氏は2021年にNatureを離れ、昨年私にコンタクトしてきたのは別の科学記者だった。その後、私の記事はNature姉妹誌間をたらい回しにされた挙句、公表されることはなかった。しかし今回、ようやく「日本の再生医療」の現状を世界に向けて初めて発信する機会を得た。 一方、Cyranoski氏は退職後の2023年に、Natureのライバル誌でもあるCell PressのCell Stem Cellに「Too little, too soon: Japan's experiment in regenerative medicine deregulation(未熟かつ拙速:日本の再生医療規制緩和の試み)」というド直球の寄稿(Cell Stem Cell 2023; 30: 913-916)を掲載してますます意気軒高である。この論文も合わせて紹介する。 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×