まれだが脅威、ペストに遭遇したら? シプロフロキサシンの非劣性試験 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする (© Adobe Stock ※画像はイメージです) 研究の背景:ペストの今ーアミノグリコシド系抗菌薬の副作用が課題 「ペスト」の名はアルベール・カミュの小説でも有名で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック直後にこの小説は再注目された。しかし、この感染症がどういうものかを知る医療者は少ないだろう。僕自身、まだ1例しか経験はない。 ペストはYersinia pestisというグラム陰性桿菌による感染だ。アレクサンドル・エルサン(A. Yersin)が原因菌を発見したのでこの名を冠された。ただし、ほぼ同時期に同じ発見をしていた人物がいる。北里柴三郎だ。しかし、北里は血液中から検出された菌を「グラム陽性双球菌」と間違って描写していた。それが理由かどうかは知らないが、往時「パスツレラ・ペスティス(Pasteurella pestis)」と命名されていた本菌は、1967年、国際微生物学協会連合の機関誌(IJSEM)で「エルサン」にちなみ「エルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)」と学名が定められた(Clin Microbiol Infect 2014; 20: 202-209)。 ペストは「ノミ」が媒介する稀有なズーノーシスだ。ダニや蚊が媒介する感染症はあまたあれど、「ノミ」が媒介する感染症はペストや瓜実条虫症などかなり限定的だ。げっ歯類が持つペスト菌をノミが咬み、そのノミが人間を咬んで感染する。所属するリンパ節が腫脹すると「腺ペスト(bubonic plague)」となる。もちろん、「腺」というのはミスノーマーで、リンパ節を「分泌腺」と勘違いした歴史的誤称が現在にも残っているというだけだ。今でも腫脹したリンパ節のことを「buboes」と呼ぶ。菌が肺に到達すると「肺ペスト(pneumonic plague)」となる。肺ペストは気道分泌物よりヒト・ヒト感染するから、感染対策モードがガラリと変わる。抗菌薬のない時代、腺ペストの死亡率は75%だった。カミュが小説にするわけである。現在では「17〜26%」と世界保健機関(WHO)はいう。 世界的にペストは減っているが、米国などの先進国でもペストは発生している。僕が経験したのも西海岸で感染したペスト患者だった(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2003; 52: 725-728)。 ペストが現在も多いのがコンゴ民主共和国とマダガスカルである。2018〜24年にマダガスカルでは少なくとも598例のペストが報告されている。 ペストの治療は複数あるが、ランダム化比較試験(RCT)で効果を示したエビデンスはない。ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、ST合剤、ドキシサイクリン、キノロンなどが用いられうる。 マダガスカルの2018年ガイドラインでは、3日間のアミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシンまたはゲンタマイシン)の後、7日間のシプロフロキサシンが推奨されている。10日間のシプロフロキサシンは3番手の推奨として記されている(15歳未満の小児にはこれが第一推奨)。アミノグリコシド系抗菌薬は副作用が多いため、今回紹介する研究が遂行された。 Randremanana RV, et al. Ciprofloxacin versus Aminoglycoside-Ciprofloxacin for Bubonic Plague. N Engl J Med 2025; 393: 544-555. 参考になった 名の医師が参考になったと回答 記事をクリップ 記事をクリップして、あとでマイページから読むことができます Facebookでシェアする Xでシェアする Lineでシェアする ×