睡眠時無呼吸の新指標「低酸素負荷」の実力

AHIを上回る予後予測能

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景1: AHIはOSAの多様性を十分反映していない

 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、睡眠中に上気道が繰り返し閉塞し、断続的な低酸素血症を引き起こす疾患である 。特に、冠動脈疾患患者におけるOSAの有病率は一般人口に比べて著しく高く、予後を悪化させる可能性が指摘されてきた。

 OSAの標準的な重症度指標は、睡眠1時間当たりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示す無呼吸低呼吸指数(Apnea-Hypopnea Index;AHI)である。しかし、AHIに基づいて重症と診断された患者に対し、標準治療である持続陽圧呼吸(CPAP)療法を行っても、大規模なランダム化比較試験では主要心血管・脳血管イベントの発生を一貫して抑制できることは示されておらず、AHIがOSAの病態の多様性や心血管リスクを十分に反映していないのではないかという懸念があった。

 AHIは、OSAの診断と重症度分類に広く用いられてきた。例えばAHI 5回/時間以上でOSAと診断され、5〜15回/時間は軽症、15〜30回/時間は中等症、30回/時間以上は重症とされる。CPAP療法の適応は、AHI 20回/時間以上である。

 しかし、このAHIという指標には、幾つかの限界がある。第一に、AHIはイベントの回数のみを捉えており、酸素飽和度(SpO₂)がどれだけ低下したか、またどれくらいの時間持続したかといった側面を反映しない。第二に、AHIが同じであっても、患者によって低酸素血症の深さや時間は大きく異なる。第三に、AHIと症状の相関は必ずしも強くなく、QOLや心血管リスクを説明し切れない場合がある。

 実際、過去の疫学研究ではAHIが高くても心血管イベントリスクに結び付かない症例が報告されており、OSAの表現型の多様性を反映するにはAHIでは不十分であると考えられる。この限界を補う新たな指標として登場したのが「低酸素負荷(hypoxic burden;HB)」である。

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