ドクターズアイ 菅野義彦(腎臓内科)

複雑過ぎ!多疾患合併高齢者の正しい食事指導

何を食べればいいの?食べるものないよ

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研究の背景:食事療法は単疾患患者を想定して提唱されている

 腎臓病は蛋白質制限、糖尿病はエネルギー(または糖質)制限、脂質異常症は脂質制限が必要とされている。しかし、ここで「これらの疾患を合併している患者は何を食べればよいの?」という学生レベルの問いが生じる。

 誰もが認識しているが、ずっと放置されてきた昔からの課題で、エビデンスうんぬんといわれる前の時代から、生活習慣病の患者を診ている医師の誰もが疑問に思ってきた。にもかかわらず、マルチプルチョイスの選択肢にできるような答えは誰も知らない。高齢化が進み医療レベルが向上する中で、多くの合併症を持つ患者が一般診療のほとんどを占めるようになった。筆者の外来でいえば「腎臓だけ悪い」患者は圧倒的にマイノリティーであり、筆者の意思とは別に腎臓領域以外の知識と経験が増えている。

 今回、取り上げるのはJ Ren NutrのEditorial(2025; 35: 245-247)である。責任著者のLinda W. Mooreは管理栄養士の資格を取得後、臓器移植領域の新薬開発、臨床試験コンサルタントを経て現在は米・Houston Methodist hospitalの外科学准教授、臨床研究プログラムのコアディレクターを務めている。わが国の管理栄養士にはあまり見られないキャリアだが、臨床医学におけるプレーヤーは変化している。今後、卒後入職した施設に虎の子のライセンスを握り締めてずっと居続けるのではなく、技術と知識と経験を積むとともにどんどん異動して、キャリアアップするような人材が各職種から誕生するような頼もしい時代を迎えるかもしれない。

 さて、Mooreの危惧は移植臓器としての腎臓と肝臓を管理する立場ならではの発想と思われるが、蛋白質摂取を制限すべき慢性腎臓病(CKD)と良質な蛋白質を摂取すべき慢性肝臓病を合併する患者にはどう対応すればよいのか、という疑問を投げかけている。またこのような複数疾患を持つ患者では、日本でも昨今大きな問題となっているサルコペニア・フレイルをほぼ合併することを指摘している。このサルコペニア・フレイルはロコモティブシンドロームとしても認識されており、洋の東西を問わず合併した場合には多くの合併疾患での死亡率上昇、QOLの低下、医療費の増加が認められている。このようにサルコペニア・フレイルは非常に厄介な存在であるにもかかわらず、治療法は良質な蛋白質摂取と運動による非薬物療法であり、多くの医療者が苦手な分野なのである。

 先日発表されたAsia Working Group for Sarcopenia(AWGS)の2025年改訂版定義(Nat Aging 2025; 4)を受け、わが国のサルコペニア診断基準も改訂される予定であるため、注意されたい。

菅野 義彦(かんの よしひこ)

東京医科大学腎臓内科学分野主任教授

1991年慶應義塾大学医学部卒業。同大学院進学後、米国ジョージワシントン大学、国立衛生研究所に留学。埼玉医科大学腎臓内科、医学教育センター、慶應義塾大学医学部血液浄化・透析センターを経て2013年より現職。2018年より大学病院副院長(医療安全・危機管理)、2024年より大学副学長補佐を務める傍ら2021年システムデザインマネジメント学修士、2025年教育学修士を取得。腎臓・高血圧・透析領域のみならず感染症、老年医学、医学教育などの専門資格を有する。また臨床栄養学に関するオピニオンリーダーの1人でもあり、日本臨床栄養学会、日本病態栄養学会の理事を務める。

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