気胸に胸腔ドレーンを入れない時代が来る?

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする
感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

研究の背景:日本の気胸診療はガラパゴス気味かも

 医師が遭遇する気胸には2種類ある。それは、胸腔ドレーンを入れなければならない気胸と、入れなくてよい気胸だ。有症状や虚脱率が大きい気胸は前者で、無症状や虚脱率が小さな気胸は後者、というのが世界標準であった。しかし、ここ数年、気胸の診療は大きく変わりつつある。実は、日本の気胸診療はいささかガラパゴス気味かもしれない。

 例えば、自然気胸患者73例に対して、初期治療としての穿刺吸引と胸腔ドレナージを比較した研究(BMJ 1994;309:1338-1339)によると、穿刺吸引だけで80%が治癒した。また、初回治療に穿刺吸引を行う場合と胸腔ドレーンを挿入する場合を比較した別の研究(Eur Respir J 2017;49:1601296)においても、穿刺吸引群では初回穿刺で半数が治癒し、2回目の穿刺を受けた人でも半数が治癒した。この研究では、最終的に胸腔ドレナージに踏み切ることになったのは全体の30%だったため、10人に7人が胸腔ドレナージを回避できたことになる。

 このように、胸腔ドレナージをできるだけ回避するという保守的なプラクティスが有効であることが示されているわけである。なお、私の知り合いの英国人医師も、総合病院で「胸腔ドレナージを入れない」選択肢を取ることが増えてきたと言っていた。

 今回紹介するのは、究極の保守的治療ともいえる「胸腔ドレナージはおろか穿刺脱気もしない」という選択肢を、なんとランダム化比較試験(RCT)で検討したものである(N Engl J Med 2020;382:405-415)。

倉原 優 (くらはら ゆう)

国立病院機構近畿中央呼吸器センター内科医師。2006年、滋賀医科大学卒業。洛和会音羽病院での初期研修を修了後、2008年から現職。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本感染症学会感染症専門医、インフェクションコントロールドクター、音楽療法士。自身のブログで論文の和訳やエッセイを執筆(ブログ「呼吸器内科医」)。著書に『呼吸器の薬の考え方、使い方』、『COPDの教科書』、『気管支喘息バイブル』、『ねころんで読める呼吸』シリーズ、『本当にあった医学論文』シリーズ、『ポケット呼吸器診療』(毎年改訂)など。

  • Facebookでシェアする
  • Medical Tribune公式X Xでシェアする
  • Lineでシェアする