B.1.617.2来襲にワクチンは間に合うか

リアル「ワクチンレース」

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

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© Adobe Stock※画像はイメージです

研究の背景:ワクチンによる抑制戦略を脅かす新規インド型変異株

 英国、イスラエル、米国と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種が大規模に行われている国では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が激減している。ワクチンはわれわれの予想をはるかに超えて効果的であり、感染者の減少、感染拡大の防止、重症化や死亡の防止といったさまざまなアウトカムをもたらしている*1

 英国では効果的なロックダウンとワクチン接種の組み合わせが奏効し、あれほど多かった感染者も死亡者も激減した。これで経済も活性化し、日常生活も取り戻せる...と喜んでいた矢先に、新たな懸念材料が出現した。インド由来の新たな変異株、B.1.617.2である*2

 ご存じのように、インドでは2021年3月以降、巨大なCOVID-19の嵐が吹き荒れている。1日当たりの新規感染者が40万人、死亡者が4,000人に達するという巨大なものだ。患者は入院できず、入院できても1つのベッドを複数の患者で共有しているという。酸素も足りず、低酸素血症があっても酸素が投与されない患者が多数いるという。既に多くの医師がCOVID-19のために死亡した*3

 なぜ、インドでこれほどまでに巨大な「第二波」が到来したのか、原因は明らかになっていない。一説によると第一波をうまく抑え込んだ段階で「インド人はコロナに強い特別な人種だ」といった噂が流布し、人々の警戒心が低下したことが流行に拍車をかけたともいわれている(どこかで聞いたような話だ)。

 もう1つ、妥当性の高い仮説としては、変異株(SARS-CoV-2のVariantsをどう日本語に訳すかに関して議論があるが、僕は「変異したもの」を意味するこの英単語に、「変異株」という使いやすくて定着した用語を用いている)の出現がある。インドで出現したのはB.1.617系統だ。余談だが、日本のメディアはスパイク蛋白などのアミノ酸置換を変異株の呼称として用いることが多いが、これは国際的にもあまり行われていないヘンテコな習慣だ(「新型コロナウイルス」という呼称がそもそもヘンだけど)。突然変異の部位は単一ではなくて、単一の突然変異のみ述べる方法は理解の妨げになる。よって、B....というPANGO系統名をここでは用いることにする*4(B.1.1.7+E484Kといった例外的呼称もあるが、例外はあくまで例外だ)。

 日本では、まだB.1.617.2よりもB.1.617.1の方が多く見つかっている。こちらは欧州疾病対策センター(ECDC)が「関心のある変異株variants of interest(VOI)」に分類しており、臨床的インパクトについてははっきりしていないウイルスだ。一方、B.1.617.2は「懸念される変異株variants of concern(VOC)」に分類される、グレードの1つ高いウイルスである*5

 なぜ、ワクチン接種がスピーディーに行われている英国においてB.1.617.2感染が広がっているのか。ひょっとしてワクチンが効かなくなっているのではないか。今回紹介する論文は、当然出てくるこの疑問と取っ組み合ったものだ。

Bernal JL, et al. Effectiveness of COVID-19 vaccines against the B.1.617.2 variant.

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