ワクチンとlong COVID

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

© Adobe Stock ※画像はイメージです

研究の背景:mRNAワクチンはコロナを変えたがlong COVIDへの影響は?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するゲームチェンジャーがmRNAワクチンの開発だったことは、周知の事実である。しかし、「ワクチンが効く」にはいろんな意味が込められている。

 新型コロナの場合の「効く」は主に、①感染の予防、②重症化リスク・死亡リスクの低減、③他者への感染させやすさの防止−という3点に集約される。なお③は、①の達成で当然得られるであろう利益だ。

 重要なのは①と②ということになる。①では中和抗体が特に重要になる。抗体がウイルスの細胞への侵入をブロックし、感染の成立を妨げるのである。液性免疫依存な属性ともいえる。mRNAワクチンの弱点は、この中和抗体の持続時間が短いことにある。よって、ブースター接種が必要だ。

 一方②は、主に細胞性免疫に依存する属性で、細胞内で感染が成立したウイルスを、感染細胞ごと細胞傷害性T細胞などで攻撃する。こちらもブースターが効果的だが、免疫の持続時間は長い。この属性が、新型コロナにおける感染者当たりの死亡者を減らした一番大きな理由だと思っている(2番目は変異株による弱毒化)。もっとも、オミクロン以降、感染者数が激増してしまったので、致死率の低下にもかかわらず死亡者数は増加してしまったが。

 もう一点、僕が注目していた効果がある。ワクチンによるlong COVIDの予防効果の有無だ。

 Long COVIDはpost-COVID condition、long-term symptoms following SARS-CoV-2 infection、post-acute COVID-19 syndrome、post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infectionなどとも呼ばれる。世界保健機関(WHO)によると、発症3カ月以降に起き、2カ月以上続く症状があり、代替診断がないものをいう。影響は多臓器に及び、よくある症状は倦怠感、呼吸困難感、咳嗽、胸痛、下痢、頭痛、バランス不良や歩行困難、不眠、関節痛、筋肉痛、筋力低下、神経認知機能障害、動悸、痺れ、皮疹、脱毛などだ。

 ワクチンによるlong COVID予防効果について、メタ分析が出ているので今回はこれを紹介したい。

Gao P, Liu J, Liu M. Effect of COVID-19 Vaccines on Reducing the Risk of Long COVID in the Real World: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health 2022; 19: 12422.

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

岩田氏

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長。 著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

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