研究の背景:寒冷地での地震災害において低体温症は過小評価 今年(2024年)元日に発生し石川県で最大震度7を観測した能登半島地震は、1月7日現在、死亡者数は128人、安否不明者は195人となっている。無情にも今後は降雪の予想もあり、寒冷地の大規模地震災害はなぜ、こうも冬にばかり発生するのだろうかとあらためて感じずにはいられない※1。 救助隊は倒壊した建物の瓦礫の下で懸命に捜索を続けているはずであるが、最低気温が0℃近くまで下がる中、新たな生存者を発見できる可能性は時間の経過とともに限りなくゼロに近づいている。また、既に避難している被災者も安心できる環境にはまだない。暖かい衣服や燃料、暖房、電気の供給が十分でない環境にあると想像され、寒冷地における避難所での生活では、低体温症に陥る危険性がある。 低体温症は、深部体温が35℃以下に低下した状態と定義されているが、そもそも地震災害現場のような混乱した状況では、低体温症患者はトリアージで優先順位が低くなりやすい。また、避難所のような寒冷環境では、被災者が低体温症に陥りやすい条件がそろいやすく、かつその初期症状も見落とされやすい。そのため、これまでの寒冷地での地震災害においては、低体温症の実態把握が難しく、過小評価されてきたことが指摘されている。 今回紹介する論文は、2011年の東日本大震災における宮城県の遺体発見場所と居住地データを基に、地震・津波災害における寒冷地特有の死傷原因について考察した研究である。 A study on hypothermia and associated countermeasures in tsunami disasters: A case study of Miyagi Prefecture during the 2011 great East Japan earthquake(Int J Disaster Risk Reduct 2022; 81: 103253) また、米国ウィルダネス医学会(Wilderness Medical Society;WMS)がまとめた、偶発性低体温症の野外環境での診断・治療に関する臨床ガイドラインについても合わせて紹介したい。 Wilderness Medical Society Clinical Practice Guidelines for the Out-of-Hospital Evaluation and Treatment of Accidental Hypothermia: 2019 Update(Wilderness Environ Med 2019; 30: S47-S69) これら2つの論文・ガイドラインを読むことで、寒冷地での地震災害により、広範囲にわたってインフラが遮断された環境に置かれたときに、われわれ医療従事者が何をなすべきかが見えてくる。 ※1 東日本大震災(2011年3月11日、マグニチュード9.0、死亡者数1万8,423人)、トルコ・シリア地震(2023年2月6日、マグニチュード7.8、死亡者数約6万人)