やっぱりゾコーバは「効かなかった」

症状改善までの時間を検討した国際第Ⅲ相試験を吟味

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

(© Adobe Stock ※画像はイメージです)

 

研究の背景:ゾコーバにコストに見合う臨床効果はあるのか?

 ゾコーバ(一般名エンシトレルビル)については以前にも書いた。レセプトデータを用いたビッグデータ・スタディが「入院を減らす」という結論を主張していたのだが、批判的に論文を吟味すると、そういう結論は出せませんよ、という解説だった(「ゾコーバはコロナ入院を減らすのか」)。

 もともと僕は同薬の使用には批判的だ。ウイルス抑制効果はあるが、臨床効果はないかあっても微々たるもので、そのコストには見合わない。現存するベターな薬を優先させるべきだと主張していた。パニックバイのような、緊急承認決定も間違いだと主張していた。「専門家」でゾコーバを推すか否かで、その「専門家」の質が分かる、とすら言っていた(東洋経済ONLINE「コロナ治療薬『ゾコーバ』感染症専門医が抱く疑問」)。

 残念ながら、厚生労働省の「手引き」も含めて、同薬を「推す」向きは多く、日本ではたくさんのゾコーバが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に処方された(保険診療になるまでは)。

 ゾコーバの有効成分であるエンシトレルビル・フマル酸は経口プロテアーゼ阻害薬であり、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を抑制し、ウイルス量を減らす。呼吸器症状が改善し、症状改善までの時間が1日程度短くなることが先行研究で示唆されていた(Clin Infect Dis 2023; 76: 1403-1411Antimicrob Agents Chemother 2022; 66: e0069722JAMA Netw Open 2024; 7: e2354991)。また、COVID-19後のいわゆる「Long COVID」を減らすのではないか、と示唆する研究もある(Antiviral Res 2024; 229: 105958)。

 さて、そんなエンシトレルビルの臨床効果を吟味したランダム化比較試験(RCT)が最近、Clinical Infection Diseaseに発表された。今回はこの論文を吟味することにする。

Luetkemeyer AF, et al. Ensitrelvir for the Treatment of Nonhospitalized Adults with COVID-19: Results from the SCORPIO-HR, Phase 3, Randomized, Double-blind, Placebo-Controlled Trial. Clin Infect Dis 2025 Feb 17:ciaf029.

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より現職。著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

岩田 健太郎
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