リアルワールドデータでRCTを模倣する

ターゲット・トライアル・エミュレーション・スタディとは

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

(© Adobe Stock ※画像はイメージです)

研究の背景:高齢CAP初期治療にはβ-ラクタマーゼ阻害薬配合がよい?

 今回紹介するのは大阪大学の山本舜悟先生たちが最近出したもので、「業界」ではわりと有名なものだ。紹介する理由は単純に「Target Trial Emulation Study(TTE)」という呼称を知らなかったからで、これを奇貨として勉強することにしたかったのである。

Yamamoto S, et al. Effectiveness of Ampicillin-Sulbactam Versus Ceftriaxone for the Initial Treatment of Community-Acquired Pneumonia in Older Adults: A Target Trial Emulation Study. Open Forum Infect Dis 2025; 12: ofaf133  

 高齢者に対する市中肺炎(CAP)の初期治療について、アンピシリン・スルバクタムとセフトリアキソンを比較したという、わりとリアルに「あるある」なシチュエーションをテーマにした研究だ。高齢者では嫌気性菌による誤嚥性肺炎が多いだろうから、β-ラクタマーゼ阻害薬のスルバクタムが入っていたほうがいいんじゃないの?という演繹的な推測ができる。それを「実際にはどうよ」と帰納的に検証した研究が稀有だから、今回のような論文を書くインセンティブになるのだ。

 さて、TTEである。Emulationとは、張り合うこととか、模倣することを意味する。張り合う相手はランダム化比較試験(RCT)だ。お金も時間もかかるRCTに対抗し、現存するデータを活用して狙いとするRCT(hypothetical target trial)のデザインを模倣(emulate)する。お金も時間もかからないのがメリットだし、患者はリアル・ワールドの患者であるのもメリットだ(RCTに参加できるのは、基礎疾患や併用薬が少なかったり、ちゃんと通院できる「理想的な」患者に限られるからだ)。

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より現職。著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

岩田 健太郎
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