研究の背景:片耳聴診にも利点はあるが、「ながら聴診」のリスク 医師が行う日常的な診察手技の1つに「聴診」がある。ベッドサイドや外来で、聴診器を患者の胸や背中に当てる行為は診療の基本であり、呼吸器疾患や循環器疾患の診断において極めて重要な情報を与えてくれる。 ルネ・ラエンネックが1816年に木製の筒の片耳聴診器を発明して以来、聴診器は驚異的な進化を遂げ、現代では両耳で聴取する聴診器が標準となっている。両耳で聴くというスタイルは、音響情報を最大限に活用するために最適化された設計思想に基づいている。 片耳聴診という手技がある。聴診器のイヤーピースを片方の耳にだけ装着し、もう片方の耳は開放しておく方法である(写真)。なんだか間の抜けた写真になってしまい、申し訳ない。 写真. 片耳聴診(筆者):片側のイヤーピースを外す そもそも、聴診器そのものが両耳で聴く設計になっていることから、片耳で聴くというのは推奨外の行為であるという前提がある。その上で、片耳聴診の利点は、聴診を行いながら、もう片方の耳で患者とコミュニケーションを取ったり、周囲の医療スタッフの声やモニターのアラーム音に注意を払ったりできることにある。必然的に、「ながら聴診」になってしまうことから、取りこぼしは多くなる。これまで、その妥当性を科学的に検証した研究は存在しなかった。 紹介する研究(Cureus 2025; 17: e88673)は、片耳聴診と両耳聴診の有用性を直接比較し、その診断精度に差があるのかを明らかにしたものである。