セフトリアキソンは役に立つ

腸球菌による感染性心内膜炎

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感染症ビジョナリーズ 感染症ビジョナリーズ

(© Adobe Stock ※画像はイメージです)

研究の背景:求められるOPATを考慮したセフトリアキソン・シナジー戦略

 セフェム系抗菌薬は腸球菌には無効―初期研修医レベルの基礎知識だ。

 しかし、Enterococcus faecalisによる感染性心内膜炎(EFIE)の場合、アンピシリンにセフトリアキソンを併用することでシナジー効果が得られる。感染症専門医を目指す後期研修医レベルの知識だ。これは比較的新しい「常識」で、従来はシナジーを狙ってゲンタマイシンとの併用が行われていた。しかし、耐性菌や副作用の問題から近年はセフトリアキソンが主流となっている。アミノグリコシドは、私が研修医だった頃に比べるとかなり利用価値が下がってきている。

 ときに、アンピシリンは半減期が短く室温で不安定のため、外来持続点滴(OPAT)には不向きである。1日1回使用が可能なセフトリアキソンと併用するならば、半減期の長いベンジルペニシリンを選択する方法が想起され、使用されつつあるが、ベンジルペニシリン+セフトリアキソン(PC)の併用効果を吟味した研究は希少である。アンピシリン+セフトリアキソン(AC)の方がシナジーは強いことは分かっている。

 セフトリアキソンは、部分的に飽和したペニシリン結合蛋白(PBP)を完全に阻害し、細胞壁合成を停止させる効果があるとされる。だが、セフトリアキソン単独ではセンサーと反応レギュレーターが働いて、CroRS系を介したPBP4の過剰発現により耐性化が起こってしまう。セフェム系抗菌薬単独では駄目なのだ。また、pbp4遺伝子上流の欠失変異(82番目のチミンの欠失、-82delTなど)があると、PBP4の産生が増加し、セフトリアキソン最小発育阻止濃度(MIC)上昇の要因となる。

 今回紹介するのは、こうした前提知識を背景に、in vitroのシナジー検査結果と臨床アウトカムとの関係を吟味した研究である。

Gregson A, et al. Dual β-lactam synergy in Enterococcus faecalis and its relationship with penicillin-ceftriaxone infective endocarditis treatment outcomes. J Antimicrob Chemother 2025 Oct 17: dkaf377.

岩田 健太郎(いわた けんたろう)

神戸大学大学院医学研究科教授(微生物感染症学講座感染治療学分野)・神戸大学医学部付属病院感染症内科診療科長

1971年、島根県生まれ。島根医科大学卒業後、沖縄県立中部病院、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、アルバートアインシュタイン医科大学ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より現職。著書に『悪魔の味方 — 米国医療の現場から』『感染症は実在しない — 構造構成的感染症学』など、編著に『診断のゲシュタルトとデギュスタシオン』『医療につける薬 — 内田樹・鷲田清一に聞く』など多数。

岩田 健太郎
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