〔編集部から〕気鋭のドクターが独自の視点で論考を展開する人気連載「Doctor's Eye」の執筆陣に、今月から新たに順天堂大学運動器再生医学講座特任教授の齋田良知氏が加わりました。整形外科領域を中心に、話題の最新論文を日常臨床の立場で徹底解説していただきます。 「週にどれくらい走ればいいですか?」「どのくらい歩くとケガをしますか?」― 私たちは"走り過ぎ"を週単位で考えがちだが、実際に障害を起こすのは"たった1回の走り過ぎ"かもしれない。Garmin を用いた 5,200 人の大規模コホート研究が、その境界線を可視化した(Br J Sports Med 2025; 59: 1203-1210)。 研究の背景:従来研究は"週単位"で負荷管理を定量化 ランニング障害(overuse injury)は、整形外科外来やスポーツ現場で最も頻繁に見られるスポーツ障害である。原因の多くはトレーニングのし過ぎ、すなわち"too much, too soon"。これまで負荷管理の定量化には Acute:Chronic Workload Ratio(ACWR)が広く使われ、「直近1週間(急性)の走行距離÷過去3〜4週間(慢性)の平均値」で"どれだけ急に負荷を上げたか"を示してきた。しかし本研究は、この"週単位"の常識を揺さぶる結果を示した。 Garmin は 全地球測位システム(GPS) および加速度センサーを備えたスマートウオッチであり、走行距離やペース、時間などを自動的に記録する。本研究では Garmin Connect アプリを通じて収集された客観的データを解析し、ランナーの実際の走行パターンと障害発生の関係を明らかにした。