19世紀末に精神科医のピックが初めて報告したというピック病は、比較的若い年代に起こり得る認知症として注目されている。東京都立松沢病院検査科の土谷邦秋医長(神経内科)は「異常行動、言語障害、人格変化の3つの特徴的な症状があります。思い当たることがあれば、神経内科や精神科などの初老期認知症の専門医に相談してください」と話す。
若い年代にも起こるピック病 (物忘れ4)
schedule 2012年01月05日 公開
社会への関心消失
ピック病は認知症の1つで、大脳皮質の神経細胞が変性(著しい形態的変化)して失われ、その部分の脳が萎縮(いしゅく)してくる病気。脳の神経細胞が変性するという意味では、アルツハイマー病やレビー小体型認知症と同じ仲間に入る。
原因はよく解明されていないが、脳の神経細胞中にたまるピック球と呼ばれる異常なタンパク質が関係していることが分かっている。画像診断では、前頭葉や側頭葉が萎縮して見える。主に中年以降に発症するが、頻度はアルツハイマー病に比べかなり低い。
異常行動では、自分や社会に対する関心が消失するために、(1)不潔になる、(2)衣服の乱れを気にしない、(3)約束を守らない、(4)仕事の能率が低下する―などの症状が起こる。
硬く冷たい表情に
言語障害については、限られた単語やテーマを繰り返し、意味のある言葉が発せられなくなる。さらに人格変化では、感情移入や共感を欠き、表情が硬く冷たくなる。
アルツハイマー病は、記憶力や判断力など知的活動の低下から病気が始まるが、ピック病では、初期には知的活動の低下は目立たない。筆談で意思疎通が可能なこともあり、認知症診断のための知能評価テストで高得点を挙げることもある。
しかし、この病気の進行は速く、最後には寝たきりになることが多い。
土谷医長は「根本的な治療法はありませんが、多くの研究者の間で関心が高まっており、解明が今後進んでいくと思います。薬物などで症状はある程度抑えることができ、専門に受け入れる病院が全国的に増えています」と話している。
2008年12月取材(記事内容、医師の所属・肩書きは取材当時のもの)