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「不思議の国のアリス症候群」とは?

 2012年03月02日 06:00

 〈「へんなの、へーんなの!」とアリス。「あたし、望遠鏡みたいにちぢまっちゃってるのね」。そしてたしかにそのとおり。アリスはいまや、身のたけたったの25センチ。〉

 これはルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』の一節だが、不思議の国のアリス症候群では、この童話でアリスが体験した数々の奇妙な感覚が現れる。「てんかん、片頭痛、離人症のほか、脳腫瘍や薬物が原因で症状が出現する場合もあります。神経内科、脳神経外科、精神科のいずれかへの受診が必要です」と京都大学大学院人間・環境学研究科の新宮一成教授(精神医学)は話す。

現実離れした空間を想像する思考力が現れる

 不思議の国のアリス症候群では、自分の体が大きくなったり小さくなったり、時間が経つのを早く感じたりといった奇妙な感覚が起こる。これらはルイス・キャロルが『不思議の国のアリス』で描いている現象で、英国の精神科医ジョン・トッドがこの童話にちなんで名付けた。患者の数は少ないが、子供にも大人にも起こる可能性がある病気だ。

 新宮教授によると、患者は、「論理」と「空間認知」という2つの能力のつながりが通常の状態ではなくなっていると考えられるという。

 「通常、私たちが空間を三次元のものとして正常に認知できるのは、子供の時から明日・昨日、大きい・小さい、表・裏などと、他人と言葉を使ってチェックし合いながら空間を捉えてきたからです。つまり、論理を空間に当てはめる訓練をしてきたおかげなのです。そこからさらに、人間の論理的思考力は現実離れした空間を想像することも可能です。表と裏の区別がない『メビウスの帯(輪)』や内と外の区別がない『クラインのつぼ』などがその具体例でしょう。ルイス・キャロルが数学者でもあったことで、空間の独特の変容体験が、あれほど巧みに言語的に描き出されることになったのかもしれません」(新宮教授)

 不思議の国のアリス症候群では、現実離れした空間を想像するこうした思考力が病的に現れ、さまざまな奇妙な感覚が出現するのを手伝っていると考えられる。また、症状の根底には、体に対する空間認知能力の歪みがあるため、この症候群と関係の深いてんかんなどでは、泳いだり踊ったりするような無目的な動きを伴う例もある。

 「一般に、空間認知の領域に異常のある患者さんに絵を描いてもらうと、曲がった時計や歪んだ家が描かれます。顔の前で指と指を合わせる検査があるのですが、それがうまくできなかったり、数字の位取りができないこともあります」(新宮教授)

主な原因はてんかん、片頭痛

 不思議の国のアリス症候群は、てんかんの発作前や片頭痛の前兆として現れることが知られており、ルイス・キャロルも片頭痛持ちだったといわれている。そうだとすれば、片頭痛の発作が脳に機能的な変化をもたらし、空間処理をつかさどる頭頂葉、視覚認知をつかさどる後頭葉、そしてそれらの空間認知を総合する論理能力の関係に何らかの異常が生じているのではないかと考えられるという。

 新宮教授は「不思議の国のアリス症候群では、空間認知に関わる脳の領域がてんかん、片頭痛などの病気に巻き込まれていると考えられます。症状を抑えるためには、脳の器質的(物理的)異常の元になっているてんかんや片頭痛の治療が有効です。そのほか、脳腫瘍、薬物、ウイルス感染による場合もあると言われています。症候が現れたら神経内科か脳神経外科を受診してください」と話す。

大学生の半数が体験する「離人症」で起こることも

 また、てんかんや片頭痛がないにもかかわらず、不思議の国のアリス症候群が見られる場合、重度の離人症が疑われるという。離人症では、世界が現実的に感じられなくなったり、自分の腕などを見ていてもそれが自分の体の一部であると感じられなくなったり、アルバムなどで過去の自分の姿を見てもそれが自分だと思えなくなる。病的なレベルではない離人体験は大学生の50%が経験するという報告もある。

 新宮教授は「軽度の離人症は薬を使わなくても自然と治ることがあります。ただし、不思議の国のアリス症候群が出現するような離人症には、何らかの脳の病気が隠れているかもしれません。早めに精神科を受診してください」と呼び掛けている。

(宮下 直紀)

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