第3回 シエラレオネ・ギニア:コレラ流行、MSFが援助拡大
2012年09月19日 12:30
大西洋に面したアフリカ西部の国・シエラレオネ。首都フリータウンの東通りに住むオマール・カグさん(39歳)はその日、家の中の雑用を片付けていました。「急に力が抜けたようになって、トイレに駆け込んだのです」。
突然の症状で意識不明に
用を足して出てくると、すぐにまた便意が襲ってきました。そのうち具合が悪くなり、国境なき医師団(MSF)が運営するコレラ治療センター(CTC)に駆け込みました。カグさんは、シエラレオネで現在流行しているコレラにかかっていたのです。
カグさんは以前、同じ症状が出た友人をこのCTCに運び込んだことがありました。「病院のことはその時、初めて知りました。友人を治療してくれました」。その時のことを覚えていたのです。CTCに到着するとすぐに点滴を受け、一命を取り留めました。
教師のローズマリー・ボマさんも、何度も便意を催し、嘔吐(おうと)を繰り返してCTCに運ばれてきました。意識を失うほどの重体に陥り、点滴を2日間打ち続けて「やっと症状がましになってきました」と話します。
ボマさんは学校で、病気予防のために手洗いを徹底するように指導していました。世界保健機関(WHO)のスタッフが子供たちへの衛生指導で来校した際に、司会を務めたのもボマさんでした。「手洗いが重要なことは分かっていたのに...」
CTCでは、清掃員が各部屋を頻繁に回り、衛生状態を保っています。一方、ボマさんは「(CTCと比べて)街ではあちこちで汚水や汚物が見られます。これがコレラの原因なのではないでしょうか」と懸念しています。
衛生意識の向上が急務、各家庭を訪問
コレラ菌は汚染された水や食べ物を通じて拡大します。トイレが不足していたり、上下水道設備が整っていなかったりすると、事態はさらに深刻化します。また、MSFの疫学専門家であるミシェル・ヴァン・エルプは「沿岸の海水が、コレラ菌の生存と感染の好条件になっています」と指摘しています。感染拡大を防ぐためには、人々の衛生意識を高めるしかありません。
MSFでは、健康教育担当スタッフが各地域で感染予防の方法と治療を伝える活動を行っています。MSFの衛生専門家であるトラオレ・ドロアマンは「衛生観念に対する意識改革が必要です」と説明します。
シエラレオネの隣国で、同じくコレラが流行しているギニアでは、病気の予防など必要な情報を伝える民間ラジオ局がたくさんあります。しかし、ラジオ放送を受信できない遠隔地や、経済的な事情でラジオを持っていない家庭もあります。
そうした地域では、各家庭を訪問し、コレラの症例と予防を伝えていくことが重要です。感染者は最寄りの医療施設に運び、コレラで亡くなった人は埋葬するときに特定の措置をとるように伝えます。その上で、MSFにできることを具体的に検討しています。
予防接種が有効、長期的にはインフラ整備を
MSFは、シエラレオネのフリータウンとギニアの首都コナクリで、2012年2~8月に、1万3,000人以上のコレラ患者を治療しました。また、地元管轄局と協力してCTCの増設などを進めています。
さらに、2012年4月末~5月半ばには、ギニア保健省の協力で沿岸部の14万3,000人に予防接種を行いました。これまでの活動で、予防接種の普及がコレラ対策に有効だと分かっています。MSFがギニアの沿岸部で経口ワクチンを使った予防接種を行い、コレラの流行を防いだこともあります。
シエラレオネとギニアでの大規模感染は2007年以来、5年ぶりです。ただ、散発的な流行はこれまでにも見られました。それにもかかわらず、コレラ菌への免疫が弱い人が多くいます。MSFのギニアでの活動責任者であるチャールズ・ゴードリーは「今回、コナクリの症例数は2007年同時期の2倍近くに達してしまいました。普段からコレラの予防活動を続けることが大切なのです」と指摘します。
現実的な問題として、アフリカの多くの国では当面、コレラを完全に根絶することは難しいかもしれません。予防接種は有効ですが、万能薬ではありません。ゴードリーは「上下水道と衛生設備の管理・運営を徹底することが、コレラの長期的に予防する唯一の方法です」と指摘しています。
【あなたの寄付金でできること】
- 3,000円で、基礎医療セット120人×1カ月分を用意できます。
- 5,000円で、けがをした子供の感染症を防ぐ抗生物質20人分を用意できます。
- 1万円で、外傷者の治療に使う包帯・消毒・テープを50セット用意できます。
- 3万円で、重傷者用の緊急外科手術セットを1セット用意できます。
- 5万円で、手術用麻酔17回分を用意できます。
【毎月の寄付】
1日当たり50円、または任意の金額を寄付できる方法です。安定した活動資金の確保につながり、緊急事態への迅速な対応や、より長期的な視野に立ったプログラムづくりを可能にする支援方法です。ぜひご協力ください。お申し込みはこちら。