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【寄稿】「たばこ」ではなく「タバコ」、片仮名で表記を

 2012年09月26日 09:52

編集部から

 たばこ(tobacco)はもともと外来語ですが、日本に伝来したのが16世紀辺りと古いため日本語化しており、「煙草」「莨」などの当て字のほか、平仮名で表記されるのが一般的。「あなたの健康百科」では、植物の場合を「タバコ」、製品を「たばこ」で統一しています。ところが、東京武蔵野病院で禁煙外来を担当し,日本禁煙学会の専門医でもある臼井洋介氏は,世界的な禁煙化の中で日本が進むべき方向性を踏まえ,たばこの日本語表記について考える必要があると主張します。「tobacco」は片仮名で表記すべきとする同氏に、意見を寄せてもらいました。

ひらがな表記では健康被害を連想しにくい

 "tobacco"を日本語で表記する場合,どのようにするべきであろうか。漢字で「煙草」と書く人はいるだろう。また,ひらがなで「たばこ」とする人もいる。そして,カタカナで「タバコ」と記す人もいる。それぞれについて考えてみたい。本来,名詞は,漢字がある場合は,原則として漢字を優先して使うものである。しかし,使いたい漢字が常用漢字にない場合,あるいは難しい文字の場合,漢字に当てはまらない場合,何らかの理由・意図がある場合は,ひらがなやカタカナで表記する。一般に,ひらがなは,日本古来のものに使われ,カタカナは外国由来の場合に使われる。

 漢字で「煙草」と表記したときは,その名の通り,喫煙に用いられる草という意味は分かりやすいが,カタカナやひらがなによる表記に比べて,現代においては,古めかしい印象を受ける。バスケットボールを「籠球」,バレーボールを「排球」と書き表すような印象である。あるいは"tobacco"を日本古来のものと誤解する人もいるだろう。

 ひらがなで「たばこ」とした場合はどうだろうか。このときは,柔らかい,穏やかな,ゆとりあるような印象を読み手に与えるだろう。この場合,喫煙による健康被害や火災が起きるとは,連想しにくい。漢字と同様に"tobacco"を日本古来のものと誤解する人もいるだろう。

 では,「タバコ」と表記した場合は,どうだろうか。植物としての"tobacco"は南米が原産地である。喫煙行為も本来,日本のものではない。16世紀に外国から持ち込まれたものである。よって,カタカナで表記するのが,本来の日本語の原則にかなっている。

 厚生労働省によると,わが国において喫煙による死亡者数は,年間約12万~13万人という。受動喫煙による死亡者数も年間約6,800人である。交通事故による死亡者数は年間約5,000人である。死亡者数の多さからみて,いかに危険なものか理解できよう。火災の原因第2位も喫煙によるものである。"tobacco"とは,有害な危険物だという意味を示す必要がある。これには,カタカナで記した方が,危険性が伝わりやすい。よって,カタカナで「タバコ」と記載するべきと筆者は考える。

 こうした理由から,以下,和文はタバコと表記する。

国際社会から非難される日本のタバコ対策

 世界保健機関(WHO)が2005年2月27日に発効した「タバコ規制枠組み条約(FCTC)は,わが国も批准しているが,そのことを多くの日本国民は知らない。わが国がこの条約を遵守(じゅんしゅ)しておらず,国際社会から非難を受けていることも,日本国民は知らないのである。

 同条約11条においては,『タバコ製品の包装及びラベルについて,虚偽の,誤認させるもしくは詐欺的な手段またはタバコ製品の特性,健康への影響,危険もしくは排出物について誤った印象を生じるおそれのある手段を用いることによって販売を促進しないこと。これらの手段には「ロー・タール」,「ライト」,「ウルトラ・ライト」,「マイルド」などの用語を含む。タバコ製品の包装およびラベルにはタバコの使用による有害な影響を記述する健康に関する警告をつける。主たる表示面の50%以上を占めるべきであり,30%未満ではならない。写真または絵によることができる』とある。

 わが国の有名なあるタバコ銘柄が,この条約に違反しているため,国際社会で問題となり,名称変更したことは,記憶に新しい。名称変更後の名前だが,やはり魅力的な名称であり,これもタバコの危険性について誤った印象を与え得ることには,何ら変わらない。

 一方,海外ではオーストラリアで,タバコプレーンパッケージ法により2012年12月から,タバコのパッケージを宣伝広告なしのプレーン包装で販売することになった。同国では最高裁判所に対し,タバコ企業による法的異議申し立てがあったが,これは却下された。オーストラリアの画期的かつ先進的な動向をWHOは強く歓迎し,他の国も,これを見習うよう呼び掛けている。

日本文化を継承しカタカナ表記を!

 国際状況を考えると,わが国のタバコ規制は遅れていると言わざるを得ない。このままでは,国際的な信用を失いかねない。わが国は国際条約を守る文明国なのか。今まさに,そのことが問われているといえよう。医学的に,タバコは麻薬や覚せい剤などと同様に,脳内報酬系に強い影響を与える危険な依存物質である。よって,タバコの生産,所持,取引,使用を麻薬・覚せい剤などと同等に法律で規制することが望ましい。

 日本文化にのっとれば,タバコを漢字で表記した場合は,古来より日本に存在したかのような誤った印象を与え,ひらがなで表記することは,タバコがあたかも安全なもののような誤解を招く。いずれも,国際条約違反になる。カタカナによる表記が,最もタバコの危険性を表現できる。

 われわれは,日本文化,日本精神を受け継いでいく責任がある。日本文化では,漢字,ひらがな,カタカナというように,その表記法で,意味や印象を変えることができる。タバコは,その危険性が伝わるように,カタカナで記載していくべきである。

臼井 洋介(うすい ようすけ)

2004年、日本大学医学部を卒業し、自治医科大学付属病院で臨床研修を行う。勤務する病院のたばこ火災に遭遇した経験から、禁煙推進活動を開始。現在は東京武蔵野病院で精神科診療を担うと共に禁煙外来も担当し、禁煙推進チームの副代表を務める。精神保健指定医、日本医師会認定産業医、日本禁煙学会専門医、東京消防庁自衛消防技術認定者。近著に『禁煙学 第2版』(共著、南山堂)など。

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