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ブドウの種でノロウイルス撃退! ポリフェノールが作用

 2012年12月06日 10:51

 今季、ノロウイルスが原因とみられる感染性胃腸炎の報告が、例年以上のペースで増加している。流行のピークを迎えるに当たり、重要となるのが感染の予防だ。ノロウイルスは汚染された食べ物からばかりではなく、感染者の糞便や吐瀉物からも感染し、少量のウイルスでも発症する。このような広く身近で、強力な感染源から身を守る手段として、安くて安全、環境にも優しい天然成分由来の抗ウイルス薬を、望む人は恐らく多いだろう。ベルギー・ゲント大学のDan Li氏らは、ブドウの種子の抽出物にノロウイルスを不活性化する働きがあることを実証し、米医学誌「Applied and Environmental Microbiology」(2012; 78: 7572)に報告した。ブドウの種に含まれているポリフェノールが作用しているという。

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日本の研究結果を追認

 東北大学教授の河野雅弘氏(現東京工業大学特任教授)らは、抗酸化作用を持つポリフェノールの一種「プロアントシアニジン」に、ノロウイルスのサロゲートウイルス(人工的に増やせないウイルスの代用ウイルス)に対する抗ウイルス作用があることを2009年に報告している。

 プロアントシアニジンはブドウの種から抽出したエキスの主成分であることから、Li氏らはブドウ種子エキスにも同様の作用があるかどうかを、サロゲートウイルス、糞便から採取した実際のノロウイルス、遺伝子組み換え技術で他のウイルスや大腸菌に作らせたノロウイルスの殻(カプシド)、それを構成するタンパク質(カプシド構造タンパク質)などを使って検証した。

 まず、河野氏らが用いたネコカリシウイルスとは異なるサロゲートウイルス(マウスノロウイルス)では、濃度が1ミリリットル当たり0.2ミリグラムのブドウ種子エキスでウイルスの感染性を0.1%以下に抑制できた。次に、実際のノロウイルスが人間の腸管上皮細胞株(Caco-2)表面に結合する力を観察したところ、0.2ミリグラムのブドウ種子エキスで10%、2ミリグラムで1%以下に抑制された。

 ノロウイルスは、特定の血液型抗原(O型の人だけが持つH抗原の亜種であるH1抗原)をレセプター(ウイルスの結合部分)として感染することなどが分かってきている(関連記事)。この抗原は唾液の中にも分泌されるため、ノロウイルスのカプシド構造タンパク質が唾液中抗原に結合する力を検討したところ、濃度が1ミリリットル当たり0.2ミリグラムのブドウ種子エキスで20%以下に抑えられた。

実生活に即した場面でも効果あり

 こうした抗ウイルス効果の作用メカニズムを確かめるため、ノロウイルスの殻にブドウ種子エキスを作用させて電子顕微鏡で観察した。すると、濃度が1ミリリットル当たり0.2ミリグラムのブドウ種子抽出物により殻が大きく膨張、変形し、2ミリグラムでは分解、消失したという。したがって、ブドウ種子エキスの抗ウイルス効果は、タンパク質変性作用(タンパク質を破壊する作用)による可能性が示された。

 また、ウイルスに0.1%の粉ミルクを加えると、ブドウ種子エキスの抗ウイルス効果が相殺された。つまり、タンパク質があると効果が著しく低下することが示されたことになる。ただし、これらの結果は試験管の中で行われた実験によって示されたもの。より実生活に近い状況での効果はどうなのか。

 Li氏らは、台所の金属表面を想定してステンレス表面にサロゲートウイルスを塗ったところ、感染性は濃度1ミリリットル当たり2ミリグラムのブドウ種子エキスでもほとんど抑制されなかった。

 しかし、汚染水(レタス洗浄水)にサロゲートウイルスを加えた場合の感染性は、0.2ミリグラムのブドウ種子エキスで10%、2ミリグラムで1%以下にまで抑制できた。また、これらの抗ウイルス効果は水質(化学的酸素要求量1,500ppmまでの汚染)にほとんど影響されなかったことから、水中のタンパク質などによるある程度の汚れがあっても、抗ウイルス効果はほとんど失われないことが分かったという。

(サイエンスライター・神無 久)

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