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第9回 「顧みられない病気」を知っていますか?

 2013年03月14日 12:30

 先進国ではほとんど知られておらず、途上国の熱帯地域に住む人々や、都市部のスラム街などに住む貧しい人々に多く見られる病気があります。各国政府の対策が遅れていたり、薬が利益に結び付きにくいことから製薬会社の関心が得られなかったりするため、「顧みられない病気」と表現されてきました。今回は、国境なき医師団(MSF)が25年間にわたって開発途上国で診断と治療に取り組んできたこれらの病気について、考えたいと思います。

アフリカ睡眠病―睡眠周期乱れ昏睡状態に

 中央アフリカの某村にあるMSFの病院で、ナターシャ・ミニッサルさん(11歳)が亡くなりました。死因は「アフリカ睡眠病」(アフリカトリパノソーマ症)。原因はトリパノソーマという寄生虫(原虫)で、ハエ(ツェツェバエ)に刺されることで感染します。発症するとはじめは発熱や頭痛に加えてリンパ節が腫れ、病状が進むと睡眠周期が乱れて不眠となり、治療をしなければ昏睡(こんすい)して死に至る病気です。

 ナターシャさんの症状は3カ月前に現れたにもかかわらず、村が武装勢力の影響下にあったため、移動が危険で病院に行けませんでした。危険を乗り越えてやっと病院にたどり着いたのに、残念ながら2日後に帰らぬ人となりました。

 この病気の診断手順は複雑です。腰に針を刺し込んで脊椎から髄液を採取するというリスクの高い検査が必要なこともあります。また、治療方法も進歩したとはいえ、痛みを伴ったり治療に時間がかかったりと、患者の負担は依然として大きいのです。

シャーガス病―平均余命10年縮む

 「シャーガス病」(アメリカトリパノソーマ症)は、泥とわらで作られた家の壁や天井の割れ目に住むカメムシの一種、サシガメという吸血昆虫により感染する病気で、中南米を中心に推計800万~1,000万人の患者がいます。原因は、アフリカ睡眠病と同じ寄生虫のトリパノソーマ。本来、南米地域以外ではほとんど見られない病気ですが、世界の人々の移動が活発になったことから、北米、欧州、オーストラリア、そして日本でも、次第に多くの症例が報告されるようになっています。

 長年にわたって全く症状が出ない人もいる一方で、最終的には、感染者のほぼ30%に体を消耗させる慢性症状が表れ、心不全などによって突然死する場合も。平均余命が約10年縮まるといわれています。

 現在、治療薬は40年以上前に開発された薬が2種類しかありません。しかも、毒性がある上に治療を終えるまで2カ月以上を要します。より効果的で安全な医薬品が必要ですが、新薬の開発はほとんど行われていません。

カラアザール―世界に広がる黒い熱

 1980年代後半、現在の南スーダン北部の町にあるMSFの病院で、奇妙なことが起きていました。苦痛で衰弱し、死が迫った状態で来院する人が増えたのです。その病院で働いていたフランシスさんの兄が体調を崩し、帰らぬ人となりました。やがて、フランシスさんにも症状が出始めました。

 「体が熱く、熱があり、しばらくして胃の中で何かが大きくなっているような感覚に襲われたのです」

 インドのヒンディー語で「黒い熱」を意味する「カラアザール」(内臓リーシュマニア症)は、サシチョウバエに刺されることで感染する熱帯性の寄生虫症で、治療を受けなければ、ほぼ100%死に至る病気です。年間推計30万件に及ぶ症例の90%が、バングラデシュ、インド、ネパール、南スーダン、スーダン、ブラジルで報告されています。

 診断や治療法には課題が多く、設備や人材のそろわない場所での治療は難しい状況が続いています。また、カラアザールとエイズウイルス(HIV)の両方に感染している患者の治療が大きな問題になっています。この2つはどちらも免疫系を攻撃して弱らせる病気で、どちらか一方に感染すると、もう一方に対する抵抗力も弱くなり、治療の効果も低下するため、悪循環を引き起こすのです。

新薬の開発、国レベルでの取り組み必要

 こうした中、「顧みられない熱帯病」の注目度が国際社会で高まりをみせています。2012年1月30日、世界保健機関(WHO)、各協会連盟、医薬品業界、各国政府機関などは、10種類の「顧みられない熱帯病」の根絶を2020年までに目指すことで合意した「ロンドン宣言」を発表しました。

 ただ、具体的な成果は出ていませんし、目標と現状には大きなギャップがあります。その解消には、病気のまん延国が国家レベルで検査・治療プログラムを強化することに加え、途上国で扱いやすい新しい検査法と新薬の開発・改善に投資を行う必要があるのです。

"睡眠病を叩きつぶせ"―国境なき医師団の活動

アニメ「"NTD"と闘うためのレシピ」

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