年々、世界的に平均気温が上がっており、猛暑や熱波は人々の命まで奪っている。2003年に欧州を襲った熱波は、5万人を超える死者を出した。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のShakoor Hajat氏らは、こうした気候変動による死者が将来、どのくらい増えるのかを検討し、英国では2050年代までに暑さによる死者が250%増加すると、2月3日発行の英医学誌「Journal of Epidemiology & Community Health」(電子版)に発表した。Hajat氏らは「この増加には気候変動だけでなく、高齢化も影響している」と説明している。
暑さによる死者、2050年までに250%増―英ロンドン大予測
schedule 2014年03月06日 公開
「高温日」が3倍に
Hajat氏らはまず、1993~2006年の英国の気象と死亡率の変動について検討。暑さの基準は各地域で年間平均気温の93パーセンタイル値(ロンドンで19.6度、北西部で16.6度など)、寒さの基準は年間平均気温の60パーセンタイル値(ロンドンで13.2度、北西部で10.9度など)とし、基準を超える場合、下回る場合の死亡率との関係を地域別、年齢別に調べた。
その結果、英国の全地域で暑さと寒さによって死亡の危険性が高まっており、暑さの基準を超えると1度上がるごとに死亡率が2.1%増え、寒さの基準を1度下回るごとに死亡率が2.0%増加することが分かった。年齢別では、85歳以上の高齢者の死亡リスクが最も高かったという。
さらに、この結果を将来の気候や人口の予測データに当てはめ、2020年代、2050年代、2080年代の状況を推定した。気候の予測では、暑さの基準を超える「高温日」は2080年代半ばまでに3倍に増加し、寒さの基準を下回る「低温日」は減少するとされている。
2080年代は年間1万人以上が暑さで死亡
検討の結果、2000年前後の暑さに関連した死亡者数(約2,000人)を基準とした場合、2020年代までに66%増(年間約3,300人)、2050年代までに257%増(年間約7,000人)、2080年代までに535%増(年間約1万2,700人)と推定された。
これに対し、寒さによる死亡者数は2020年代に3%増加し、2050年代には2%減少、2080年代には12%減少すると推定された。ただし、2000年前後で約4万1,000人おり、2080年代になっても暑さによる死亡者数を大幅に上回ることになる。また、暑さや寒さによる影響の受けやすさ、死亡率には地域差があり、将来も差が解消することはないという。
人口増も強く関連
以上から、Hajat氏らは「今世紀は暑さから身を守ることがますます重要になる。一方で、寒さによる影響を軽減するための対策も引き続き必要だろう」と結論した。なお、暑さ対策としてエアコンの使用を挙げつつ、「社会経済的不平等が壁となる場合もあるほか、都市部ではヒートアイランド現象などの悪影響をもたらす可能性もある」としている。
さらに、Hajat氏らは「将来の暑さや寒さによる健康への影響には、人口の増加や高齢化も強く関連している。したがって、高齢者の健康を守るための対策が求められる」と強調。「家族構成や生活パターンの変化も、高齢者の危険性に影響する可能性がある。2003年の熱波による死亡者の多くは、一人暮らしで社会的接触が少なかった」と振り返り、警鐘を鳴らしている。
(編集部)