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"コミュ障"を改善する「オキシトシン」とは?

 2014年03月31日 06:00

 近年、大人の患者数の急増が指摘されている発達障害(関連記事)。中でも、自閉症やアスペルガー障害などに代表される自閉症スペクトラム障害(ASD)は、他人の気持ちがくみ取れないといった対人コミュニケーション障害、いわゆる"コミュ障"が問題になっている(関連記事)。しかし、わが国の研究により、「オキシトシン」と呼ばれるホルモンが対人コミュニケーション障害の改善に有効なことが示され、ASDの治療への応用が期待されている(関連記事)。研究グループ※1の代表者で、発達障害外来やアスペルガー障害患者のデイケアプログラムなどに取り組む昭和大学附属烏山病院(東京都)の加藤進昌院長が、オキシトシンの可能性について説明した。

愛着や信頼を呼び起こすホルモン

 ASD患者で見られる対人コミュニケーション障害の代表的なものは、他人の気持ちが分からないこと。相手の反応に注意を払えず、自分の興味のあることだけを話し続けたり、言葉をストレートに解釈し過ぎるあまり誇張表現や比喩、冗談などを理解できなかったりする。生まれつきの脳の障害だが、外見だけでは分からないため、周囲からは「空気が読めない」「暗黙のルールに気付かない」などと非難されがちだ。

 こうした課題に取り組む加藤院長らのグループが注目するのが、オキシトシンだ。脳の視床下部から下垂体後葉に運ばれて分泌されるホルモンで、1950年に出産や母乳分泌を促す作用があることが発見され、陣痛促進剤として利用されてきた。近年は、愛着や信頼などの感情を呼び起こす働きを持っていることが分かり、「愛情ホルモン」や「幸福ホルモン」などとも呼ばれている。

 加藤院長によると、「母性の源といえるオキシトシンが父性の養育行動に対する影響を、金沢大学医学部の東田陽博特任教授らが動物実験で調べた結果、オキシトシンを投与したオスが養育をすることが分かり、脳内のオキシトシンが関わっていることが考えられる」という。また、「人間では親子の愛着行動は女性で多く見られるが、ASD患者は男性に多く、症状もいわゆる"オタク的"であることを考え合わせると、オキシトシンがASDの共感性※2、つまり対人コミュニケーション障害を改善することが期待できる」と加えた。

オキシトシンのスプレーで脳活動が活発に

 さらに加藤院長は、2012年に大人の男性で、治療を受けていないがASDの診断に該当する15人と、年齢に応じて脳が発達している健康な17人について脳機能を比較した、東京大学院医学系研究科の山末英典准教授らの実験を紹介。相手の表情と言葉が一致している場合と不一致の場合で、それぞれの被験者が表情と言葉のどちらの情報に頼っているか映像を使って調べたところ、ASDの人たちは表情よりも言葉の意味に頼っていたが、健康な人たちは表情に頼っていることが、脳画像で判明した。この実験の共著者である加藤院長は「脳の内側前頭前野の活動低下が関与していることが分かった」と説明している。

 これを受けて2013年、山末准教授らは、大人のASDの男性患者40人を対象に、オキシトシンのスプレー剤を使った研究を実施。その結果、ASDで活動が弱まっていた脳の部位(背側内側前頭前野および腹側内側前頭前野)が、オキシトシンを鼻にスプレーすると活発になることが分かった。同時に、対人コミュニケーション障害の改善にもオキシトシンが有効に働いていることが、世界で初めて脳画像で確認されたという(「Jama Psychiatry」 2014; 71: 166-175)。

 加藤院長は「オキシトシンを1回スプレーしたことで、健康な人と同じように、相手の表情や声色の両方の情報から相手の友好性を判断する行動が増えた」としている。

 結果については「オキシトシンが脳の活動に変化を加え、対人コミュニケーション障害を治療できる可能性を示す」と評価。ただ、スプレーが1回だけだったことから、実際の治療に応用するための、連続でスプレーした場合の効果を確かめる研究が必要だという。同院長は「社会への還元を目指し、研究をさらに発展させたい」と抱負を語る。

 なお、昭和大学附属烏山病院では、2008年に発達障害外来やアスペルガー障害患者のデイケアプログラムを設立し、2013年には発達障害医療研究センターを開設、「成人発達障害者支援ガイドライン」の作成などを目指すなど、発達障害の治療に積極的に取り組んでいる。

この記事は、2014年1月30日に開催された「脳とこころの病気の克服をめざして ~脳科学からのアプローチ~」での加藤院長の発表に基づくものです。

(松浦 庸夫)

  • ※1金沢大医学部の東田陽博特任教授の研究グループおよび東京大医学部の山末英典准教授の研究グループとの共同研究
  • ※2感情移入のこと。相手の感情や喜怒哀楽を理解し、感じ、共鳴する能力

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