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統合失調症の発症解明に一歩前進

 2017年03月27日 06:00

 統合失調症は、100人に1人が発症するという身近な病気だ。このたび、富山大学大学院の森寿教授をはじめとする共同研究グループが、マウスを使った実験で、統合失調症の発症に関わる脳内の物質について、新たな知見を明らかにした。神経細胞から出ている突起部分(軸索)を取り囲む「ミエリン」と呼ばれる物質が薄くなると統合失調症に似た症状が出るという。研究の詳細は、2月23日発行の科学誌「GLIA」(電子版)に掲載されている。

BCAS1ノックアウトマウスで薄くなるミエリン

 ミエリンは、神経細胞から突出している軸索を取り囲むように存在する。そのミエリンに発現している「Breast Carcinoma Amplified Sequence 1(BCAS1)」というタンパク質は、乳がんに関連するタンパク質と考えられてきたが、実際には脳に多く発現している。しかし、その役割はよく分かっていない。

 そこで、研究グループは、このBCAS1に着目し、脳での役割を解明することを目的として研究を開始した。

 まず、研究グループは、マウスを用いて、BCAS1タンパク質が脳内のどの細胞で発現しているかを詳細に調べた。その結果、マウスでは、BCAS1がミエリンを形成する細胞に限定的に存在していることが分かったという。

 続いて、研究グループは、BCAS1が脳内でどのような役割を果たしているのかを突き止めるため、遺伝子を操作してBCAS1を発現しないマウス(BCAS1ノックアウトマウス)をつくり、その行動を調べた。

 すると、BCAS1ノックアウトマウスは、BCAS1を発現する通常のマウス(野生型マウス)とほとんど同じ行動を示したが、一点だけ異なる行動が観察された。

 大きな音を2回続けてマウスに聞かせると、2回目の音に対する驚きの反応は、通常、野生型マウスでは弱くなる。ところが、BCAS1ノックアウトマウスでは2回目の音に対しても強い驚きの反応を示したという。

 こうした反応を、「プレパルスインヒビション」と呼ぶ。この行動は、BCAS1ノックアウトマウスにおいて、統合失調症と同様の症状が出ることを示すものだという。

 電子顕微鏡を用いて解析したところ、BCAS1ノックアウトマウスの脳内では、神経細胞の軸索を取り囲むミエリンが、野生型マウスに比べて薄くなっていることが分かった。ミエリンは、神経細胞が情報を効率的に伝達するよう働いている。したがって、ミエリンが薄くなるということは、BCAS1ノックアウトマウスでは、神経伝達に何らかの異常がある可能性があるということだ。

ミエリンの異常が要因の1つに

 現在、統合失調症の原因として、遺伝やストレスなど、いくつかの要因が考えられている。今回の発見によって、BCAS1遺伝子のノックアウトによるミエリンの異常が、遺伝的要因やストレスなどに関係なく、統合失調様の症状を引き起すことが分かった。この点について、研究グループは、「ただし、他の統合失調症の原因候補を排除するものではない」とコメントしている。

 研究グループは、「ミエリンが薄くなる現象は統合失調症患者の脳でも見られており、今回の結果は、ミエリンの異常が統合失調症の発症と深い関係があることを示している」とし、さらに、「将来的には、ミエリンを標的にした統合失調症の診断や治療に発展する可能性もあるだろう」と、引き続き統合失調症の発症メカニズムの解明に向けた研究への展望を強調した。

(あなたの健康百科編集部)

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