脳梗塞は高齢者がなる病気で、20代や30代の若い人の病気ではないと思われがちだが、最近では高血圧、肥満、糖尿病などが増えているせいか、若い人にも脳梗塞や脳出血が増えているという(関連記事「年齢は関係ない?30、40代でも脳卒中が増加」)。33歳漫画家志望のあやめゴン太氏は、ある朝、急に左手がだるくなった。通勤途中の駅では足に力が入らなくなり、徐々に指が曲がらなくなった。それでも会社に出勤し、すぐに病院へ――。
診断は「脳梗塞」。即入院となった。動かない左手と格闘しながら、治療、リハビリを続けていく奮闘記をTwitterで発表したところ、思いがけず多くの人に支持され、WEBマンガサイト「ふんわりジャンプ」で連載。
連載終了後、描き下ろしの新しいエピソードを加えて新刊「33歳漫画家志望が脳梗塞になった話」(集英社)を上梓(じょうし)した。
――まったく予兆もなく、ある日突然に左手が動かなくなったということですが、その「おかしいな」はどのように始まったのですか?
前の日は、普通に過ごして、特に体調が悪いとかもありませんでした。その日、朝起きて、なんとなく左手がだらんとした感じで力が入らないな・・・と。でも、そのときも「あれ、筋肉痛かな?だるいな?」って思ったんです。通勤で駅に向かう途中、左足が外側に向いてしまったりしておかしくて、「あれ?左足に力が入らない。なんかちょっと変だな」と思ったのですが、とにかく「遅刻せずに会社に行かなくちゃ」って、必死で会社に向かいました。電車に乗ったら指がどんどん動かなくなったのですが、また動くようになって、「あ!治ったかも」なんて思ったりして、結局、会社にたどり着いてから、病院へ。
――最初に行った病院では、時間外ですと断られてしまったとか?
そうなんです。受付の時間が終わっていて仕方なかったのですが、その病院の総合案内の人が、近くのクリニックを紹介してくれました。そのクリニックでは、「なんで救急車を呼ばなかったの!」と医師に怒られてしまいました。そして、最初に行った病院にUターンして検査を受け脳梗塞で「即入院」ということになりました。
――「脳梗塞」と診断された時の気持ちは?
2つ目の病院に着いたときには、左手が動かなくて、着替えもできなくなっていました。でも、頭痛はなくて、気分も悪くないし、めまいもしないし、普通にしゃべれるし、これ本当に脳梗塞なの?って思いました。想像していたものや聞いている話とは違うなと。
――今、考えると脳梗塞になったのはどんな原因が思い当たりますか?
社会人になって高血圧の持病はあったのですが、正直あまり真面目に取り組んでいなかったんですよね・・・・。それと慣れない仕事や、仕事の時間帯が不規則で生活のリズムがつかめなかったこと、寝てなかったことなどでストレスを貯めていたように思いますね。
――作品がとにかく明るいな!前向きだな!と思ったのですが、実際のところはどうだったのでしょうか?
病気の話は暗くなってしまいがちだけど、この作品を読んで暗くなってほしくないなという気持ちがあったのは事実です。でも、実際には私自身も「右手が動けばいいや!(絵が描ければ)」と思っていたので、正直、あまり落ち込みませんでした。
――作品には「お姉さんの気持ち」が描かれているページなどがありますが、本人よりも家族が落ち込まれたような...。
そうですね。母親と姉が私以上に落ち込んでいた...というのを親戚から聞いて、本当に申し訳なかったなと思いました。私自身は、自分の体なので、「今はここまでできる」「ここはできない」みたいなことが逐一分かったので、あまり落ち込まなかったんですよね。
それに、入院から3~4日経ったときに、伸びをしたら左手の指が「ぴくっ!」って動いたんです。それを見て「大丈夫!ちゃんと回復している!」と思って、落ち込みませんでした。
――強い!メンタル的にすごく強いですね。
家系なのかな?沖縄気質なのかな?「なんとかなる、なる~!」っていうのがあるんですよね(笑)。沖縄って暖かいし、周りの人が色々助けてくれるし、何があっても大丈夫だわーって思っている所がありますね。結果、今回も周りの人に助けられて、なんとかなってしまいました(笑)
それと、「ずっと絵は描いていたい」と強く思いました。まだやりたいこと、描きたいことがあるので、今、倒れるわけにはいかない!と。
――再発が怖いという話がありましたが、何か気をつけていることは?
発症してから1年は再発しやすいと聞いたので、お酒は飲まない!生活のリズムを整える!ということを肝に銘じて頑張りました。ビールが大好きなので、炭酸水を飲んだりして気を紛らわせていました。お酒をかなり飲み、泥酔伝説をたくさん持っている私ですから周りがびっくりでした。1年間は飲みませんでした...今は適量飲んでます...。それと、とにかく睡眠をとろう!と。眠くなったら寝るということを心がけていますね。
――今回の作品を発表しようと思ったきっかけは?
入院中から構想して、退院して1週間くらいでマンガにかいてTwitterに載せました。
最初、沖縄にいる母が、心配して怖い夢を見て泣いているという話を親戚から聞きました。母は私には全く言わなかったのですが、心配かけてはいけないと思いました。それで、「私、大丈夫だから」「こんな絵も描いてるよ!」「楽しんでるよ!」「元気だよ!」っていうのを母に伝えたくてTwitterにあげたんです。これを見て笑顔になってくれたらと思って。お母さんへの「今はこんなに元気です!」の手紙っていう意味もあったんです。あ、母の携帯はなぜかインターネットにつながらなくて、Twitterしてないんですけどね(笑)
そんな作品を多くの方に支持してもらって、私自身が本当にびっくりしました。20代で脳梗塞になった方とか、自分もなるかもしれないといった人も、読者になってくれているのだと思います。
――作品を通してのメッセージをお願いします。
脳梗塞は年齢に関係なく発症して、初期症状っていうのはこういうのがあるんですよというのを、若い方にも知ってもらいたいなと思っています。対応が早ければ、回復が早くなるし、症状を知って早く対応することで、「あやうく・・・」ということがなくなれば良いと思います。この作品がそれを知るきっかけになればと考えています。
脳梗塞とは?
脳の血管に血の塊が詰まり、脳への血の巡りが悪くなったり、途絶えたりする病気です。脳梗塞が起こると、右半身や左半身に麻痺が起きたり、言葉がうまく話せなくなったり、意識がはっきりしなくなったりします。後遺症が残ることが多く、日常生活に手助けが必要になることも少なくありません。命を奪われることもあります。
<脳梗塞の種類>
・ラクナ梗塞 穿通枝という細い動脈が詰まる
・アテローム血栓性梗塞 動脈硬化で狭くなった太い動脈に血栓ができて詰まる
・心原性梗塞症 心臓などでできた血栓が脳に運ばれ太い血管を詰まらせる
心原性梗塞症は高齢で発症する頻度が高く、ラクナ梗塞はアテローム血栓性梗塞よりやや年齢の若い人が発症する傾向がある(「脳卒中データバンク2015」より)
あやめゴン太(あやめごんた)
沖縄出身。
ゴン太と言えばビールと言われる程のビール好き。退院から1年間は禁酒していたが最近は飲んでいる。
著書紹介
「33歳漫画家志望が脳梗塞になった話」
漫画家を目指す33歳の女性会社員・あやめゴン太の脳梗塞発症から入院生活、リハビリの様子をマンガにしたポジティブ闘病エッセイ。Twitterで大反響を呼んだ実録マンガで、WEBマンガサイト「ふんわりジャンプ」で連載後、今回の単行本化に際しては新たに27ページの描き下ろしを追加した。
<ふんわりジャンプ>
グルメ・旅・さんぽ・ペット・趣味生活など日常系のテーマをゆるゆるっと描いた等身大の共感コミックが盛りだくさん!実力人気作家の自信作と、WEB投稿の話題作家を集結して、全国読者をまったりほっこり癒します。
(あなたの健康百科編集部)