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外科手術の進歩が生み出した新たな問題

 2017年07月26日 06:00

 近年、外科手術が進歩したことにより、生まれつき心臓に障害を持った「先天性心疾患」患者の平均寿命は大きく延びつつある。喜ばしいことだが、その一方で、これまでは長生きできなかったこうした患者が成人した後、どの診療科を受診すればよいのかという問題が出てきた。7月4日に開催された日本循環器学会のプレスセミナーでは、自身も先天性心疾患患者で、全国心臓病の子どもを守る会静岡県支部の静岡心友会代表を務める石川綾さんがこれまでの経験を紹介。また、早くからこの問題の解決に取り組んでいる聖路加国際病院心血管センターの丹羽公一郎特別顧問が、患者を取り巻く状況を紹介した。

3歳で4回の手術を経験

 現在30歳代の石川さんは、先天性心疾患患者で、心臓に障害を持って生まれてきた。そのため、生後5カ月で初めての手術を受けて以降、9カ月、1歳、3歳でも手術を経験。その後も複数回手術を受けた。今は心臓ペースメーカーを入れているため、定期的な電池交換のために今後も手術と向き合っていかなければならないという。

大人になった先天性心疾患患者は50万人に

 丹羽特別顧問によると、先天性心疾患はひと昔前であれば助かりにくい病気であったが、外科手術の進歩とともにその寿命は大きく延び、石川さんのように大人になった患者が増えているという。このような患者を成人先天性心疾患患者と呼び、現在およそ50万人が存在、毎年1万人ずつ増加している。

 そこで、成人となった場合にどの施設や診療科を受診したらよいのかという問題が発生してきている。成人先天性心疾患患者の多くは、不整脈や心不全をはじめとした成人期の合併症を適切に管理していかなければならないなど、生涯にわたる医師の経過観察を必要とする。ところが、小児科はおおむね15歳までが対象とされ、成人先天性心疾患患者が受け入れ可能な小児科の病院は少ないという。一方で、成人の心臓病を診療する循環器内科でも、これらの患者を受け入れる病院は少ない。

 このような問題の背景として以下のような点がある。小児科医は、小児期以降の成熟・老化していく心臓の変化をよく理解していないことが多く、成人期に発症しやすい合併症、女性患者の妊娠・出産のリスクを知らないなど、大人になった患者を診察し続けていくことが難しい。一方、通常の循環器内科医は、成人期の病気には慣れているが、これまで成人先天性心疾患患者を診察する機会が少なかったため、そのような患者の心臓に慣れていない。理想としては、成人先天性心疾患患者を専門とする医師が診察する体制を構築し、小児期以降では、循環器小児科ではなく成人先天性心疾患患者の専門診療が可能な施設で受診できることが望ましい。

不調を感じたら早めに受診を

 丹羽特別顧問は、このような問題に早くから取り組んできた医師の一人だ。もともとは小児科医であったが、今は成人先天性心疾患を専門としている。2012年に、循環器内科医や精神科医、産婦人科医といった複数の診療科の協力によるチーム医療で、成人先天性心疾患を専門に診療する循環器内科施設グループ「循環器内科ACHDネットワーク」を設立した。大学病院を中心に、現在は全国の30を超える施設で診療が可能だという()。

 先天性心疾患では、子どものころは元気でも、大人になってから心不全や不整脈などさまざまな合併症を患う患者が多い。しかし、丹羽特別顧問によると、病気は既に完治したと思い込み、合併症が出ても放置してしまい、手遅れの状態で受診する場合が少なくないという。「先天性心疾患患者は、大人になってからも、さまざまな合併症が起こりうる。少しでも異常を感じたら、近くの施設を受診してほしい」と丹羽特別顧問は訴える。また、石川さんも「自分の体は自分でしか守れない。不調のサインを感じたら、まずは病院へ」と早めの受診を呼びかけた。

(あなたの健康百科編集部)

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