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転移・再発乳がんに新たな治療薬

 2017年12月01日 06:00

 ファイザーは11月22日、転移・再発乳がん患者に対する新たな治療薬として、日本初の選択的サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬「イブランス」(一般名・パルボシクリブ)を発売した。この薬はホルモン療法薬との組み合わせにより、がん細胞の分裂・増殖がより強力に抑えられると考えられている。

治療目標は「生活の質を維持しながらの延命」

 日本で乳がんと診断される患者はは年々増加している。国立がん研究センター発表資料による2015年の推計では、年間約9万人が新たに乳がんと診断されている。地域がん登録全国推計に基づくデータでは、1985年の乳がん罹患数は約2万人であったことから、この30年ほどで4倍以上に増えたことが分かる。

 日本乳癌学会理事長で昭和大学乳腺外科学教授の中村清吾氏によると、乳がん増加の背景として、食生活の欧米化や検診の普及による発見率の上昇の他、女性が生涯に経験する月経回数の増加も関係していると考えられている。初潮が早く閉経は遅い女性が増えた反面、妊娠・出産を経験する人は減少している。月経中に多量に分泌される女性ホルモンの1つであるエストロゲンには、乳がん細胞を増殖させる働きがあるのである。

 一般に乳がんは、早期に診断・治療を行えば治癒が可能である場合が多い。一方、転移・再発乳がんについては局所再発を除いて治癒が困難とされ、Ⅳ期乳がんの生存率は5年時で33.8%、10年時で13.7%にとどまる。中村教授は「転移・再発乳がんの治療目標は、QOL(生活の質)を維持しながら延命を図ることだ」とした上で、「患者の人生観や価値観を含めた診療が必要である」と説明した。

使用はホルモン受容体陽性HER2陰性例に限定

 イブランスは、CDK4/6の働きを阻害することで、がん細胞の分裂を阻止し増殖を抑える。CDK4/6とは、細胞の分裂を促すスイッチをオンにする蛋白質の1つで、細胞周期の調節に大きな役割を果たしている。がん細胞ではCDK4/6の作用が、必要以上に活発になっていることが分かっている。

 イブランスによる治療の対象は、ホルモン受容体陽性かつヒト上皮成長因子受容体(HER2)陰性の乳がん患者のうち、乳房以外の臓器に乳がんが転移(遠隔転移)したため手術でがんを完全に取り除くことが難しい患者、または以前に手術などの治療を行ってからがんが再び現れてきた(再発)患者となる。

 この点について、中村氏は「乳がん患者の約20%を占めるHER2陽性乳がんに対しては、2000年以降に複数の抗HER2薬が開発され、予後は大きく改善している」と報告。一方で、乳がん患者の約70%を占めるホルモン受容体陽性・HER2陰性の転移・再発乳がんは、比較的予後が良好で治療はホルモン療法が基本となっているものの、長らく新規の治療薬が登場しなかった。今回のイブランスについて、同氏は「待ちに待った承認」と期待を示した。また、同氏は「今後、イブランスのようなホルモン陽性乳がんに対する新規薬剤の登場により、乳がん患者における再発後の生存率がさらに押し上げられるのではないかと期待している」と述べた。

来年に治療ガイドラインの改訂も

 現在、イブランスは既に世界70カ国で承認済みで、7万人以上に使用されている。日本乳癌学会では、来年(2018年)5月に「科学的根拠に基づく乳癌治療ガイドライン」の改訂を予定しており、改訂版には同薬による治療も盛り込まれる予定という。

(あなたの健康百科編集部)

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