アトピー性皮膚炎治療の問題点と展望
2017年12月14日 06:00
先日、「アトピー性皮膚炎のDisease Burden(疾病負荷)を考える」(主催:サノフィ株式会社)と題するメディアセミナーが行われた。疾病負荷とは、個別の病気が社会に及ぼす損害のこと。いくつか指標があって、患者数や死亡率、障害の重症度、生活の質(QOL)への影響、医療費や欠勤による遺失利益などから計算する。
疾病負荷が大きいアトピー性皮膚炎
セミナーでは、皮膚科・アレルギー専門医であるサノフィジェンザイムの藤田浩之免疫領域メディカル統括部長が、アトピー性皮膚炎の疾病負荷をめぐり講演を行った。厚生労働省の患者調査から患者数は増加しており、その64%が20歳以上であることや、疾病負荷としては、かゆみや見た目への不安に伴う日常生活障害や精神的負担が、労働生産性や活動性を下げ、医療費と遺失利益を合計した社会的損失は年間746億円に上ると試算されること、そしてアトピー性皮膚炎は皮膚疾患の中でも、最もQOLを損なう疾患であること―などが説明された。
現状の治療に対する患者満足度は3割
続いて、九州大学大学院体表感知学講座の中原剛士准教授は、300名(軽症100名、中等症100名、重症・最重症100名)のアトピー性皮膚炎患者を対象にした「疾患負荷と治療満足度に関する横断研究」の結果を紹介した。
治療薬に関する総合的満足度は、「満足」「とても満足」「極めて満足」を合わせても30%にとどまった。軽症患者だけでも45%と5割を下回り、現在の治療薬に対する満足度は決して高くなかった。疾病負荷に関しては、QOLに「非常に影響がある」と回答した人が35%、精神面への影響で「死にたいと思ったことがある」が13%など、この病気は精神面の負担が大きいことが裏付けられた。医師とのコミュニケーションについて尋ねたところ、かゆみや皮膚症状以外の疾病負荷について、ほとんど相談のない現状が明らかになった。医師と患者間のコミュニケーション改善が課題なのである。
アトピー性皮膚炎の治療では、この10年間新薬が登場していない。しかし現在、重症例で症状改善効果が期待される複数の生物学的製剤が開発中で、近い将来に登場する予定だという。生物学的製剤とは、バイオテクノロジーで生み出された、免疫系に働く生体内物質の働きを抑える医薬品である。その登場でアトピー性皮膚炎の治療の選択肢が増え、日常生活障害や精神的負担などの疾病負荷まで軽減されることを、中原准教授は期待している。
サポートツールを活用して医師とのコミュニケーションを
3人目の登壇者は、認定NPO法人日本アレルギー友の会の丸山恵理副理事長。1969年に設立された日本アレルギー友の会は、会員数1,200人を誇る患者会である。丸山副理事長は、生後3カ月からアトピー性皮膚炎と付き合ってきたという自身の経験を踏まえ、この病気がもたらす苦悩を解説した。かゆみが集中力を奪い不眠をもたらすこと。皮膚が汚くなり自己肯定感が持てないこと。ステロイドへの不信。現状が一生続くのかという不安・・・。
また医師とのコミュニケーションについては、患者もできることをすべきだという。短い診察時間を有効利用するには、1伝えたいことをメモしておく、2皮膚を見せやすい服装にする、3皮膚の仕組みや症状について正しい知識を持っておく―といった点が重要だ。友の会では○1を進化させ、かゆみの強さと部位などを書き込む「かゆみ日誌」を作成している。
同様のサポートツールとして、「そらいろレター」(そらいろレター プロジェクト)がある。これは、webサイトで「学校生活」「受験」「恋愛」といった一番悩んでいるテーマを選択し、チェック項目と自由記述で簡潔に説明するもの。プリントアウトを持参すれば、今まで医師に言いにくかったプライベートな話題も相談しやすくなるという。「日本アレルギー友の会に相談してもらうことも可能です」と、丸山副理事長は付け加えた。
(あなたの健康百科編集部)