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ギラン・バレー症候群に新たな治療法の可能性

 2018年05月23日 06:00

 千葉大学医学部附属病院神経内科の桑原聡教授らの研究グループは、重症のギラン・バレー症候群患者に対して、赤褐色の尿が出るヘモグロビン尿症などの治療に使うエクリズマブという薬を用いた臨床試験を実施。ギラン・バレー症候群に対する同薬の有効性が世界で初めて示された。ギラン・バレー症候群に新しい治療法がもたらされるのは、1992年以来25年ぶり。また、日本から新しい治療の可能性を示したのは今回が初めてだ。詳細は、4月20日発行の医学誌「Lancet Neurol」(電子版)に掲載されている。

2割で歩行介助、4割で職業変更が必要

 ギラン・バレー症候群は、自己免疫による末梢神経の病気だ。感冒症状や下痢などの後に、末梢神経へのアレルギー反応による炎症が生じ、急速に手足の痺れや麻痺が起こるというのが典型的な経過である。日本での発症頻度は、年間約1,400人程度。子どもから高齢者まで、幅広い年齢層で発症が見られ、平均発症年齢は39歳だ。

 神経に生じた炎症は4週以内に自然に回復するが、回復を早めるために免疫グロブリン製剤を静脈投与する免疫グロブリン療法や、血液中の有害な物質を取り除く血漿交換療法が行われる。しかし重症の場合、これらの治療が十分な効果を示さず、強い炎症により末梢神経が大きなダメージを受けてしまう。その結果、約5%が死亡、20~30%は一時的な人工呼吸器管理が必要となり、急性期を過ぎても重い麻痺や感覚の低下が残る。そして、約20%は歩行に介助が必要となり、約40%は職業の変更を余儀なくされるという。

 こうしたギラン・バレー症候群による死亡や後遺症を減らすため、これまでに世界中で新規治療の開発が試みられてきた。しかし、実用化に至るような治療法は得られなかった。つまり、1985年に北米から血漿交換療法の有効性が、1992年にオランダから免疫グロブリン療法の有効性が報告されて以来、25年以上にわたって、有効性が確認された新しい治療法はなかったということだ。

24週時点で7割が走ることが可能に

 そこで研究グループは、標準的な免疫グロブリン療法を行っているギラン・バレー症候群患者にエクリズマブを追加投与し、その有効性を検討した。エクリズマブは、補体と呼ばれる蛋白質の活性化を強力に抑える薬で、補体が主な原因となる発作性夜間ヘモグロビン尿症などの疾患に用いられている薬だ。

 対象となったのは、ギラン・バレー症候群にかかってから2週間以内で、自力での歩行ができないほど麻痺の強い重症患者。2015年8月~16年4月に、全国13施設から34人の患者が登録された。

 治療開始から4週時点で自力歩行が可能となったのは、偽薬を追加投与したグループで45%だったのに対して、エクリズマブを追加投与したグループでは61%。24週時点で走れるまでに回復した人は、それぞれ18%、72%だった。

 エクリズマブ投与との関連が否定できない重篤な有害事象として、アナフィラキシー、脳膿瘍が認められたが、いずれの患者も回復した。また、死亡および髄膜炎菌の感染患者は認められなかった。

 研究を主導した桑原教授は「これまで25年以上にわたって探求されてきたギラン・バレー症候群に対する新規治療の可能性を示すものとして、世界中の専門家が大きな期待を寄せている」と今回の成果を評価。特に、治療開始から24週時点で、走れるようになった患者が70%以上に上った点について、「走れるということは、後遺症をほぼ残さないレベルの回復を意味する。この事実は、ギラン・バレー症候群の克服を予感させる」とコメント。さらに、「今後も研究を重ね、エクリズマブの有効性と安全性を検証し、最終的には臨床現場への導入を目指したい」と意欲を示した。

(あなたの健康百科編集部)

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