アルツハイマー病患者は取り繕いがち
2018年07月02日 06:00
知らないことがあっても、あたかも知っているように話を合わせてしまう―。こうした行為は、人と会話をしている中で誰しも身に覚えがあるだろう。記憶に障害のある認知症患者でも、上手に周囲に合わせて応答することがあり、「取り繕い反応」と呼ばれている。熊本大学臨床医学教育研究センターの松下正輝特任助教らは、こうした取り繕い反応は、認知症の中でもアルツハイマー病の人に多いことを明らかにした。詳細は、5月23日発行の科学誌「PLOS ONE」に掲載されている。
アルツハイマー病の半数以上に取り繕い反応
アルツハイマー病などの認知症患者では、病気の進行とともに記憶障害が起こってくる。しかし、上手に相手に話を合わせ、忘れてしまったことをまるで憶えているかのように振る舞うことがある。このようなコミュニケーションのあり方を「取り繕い反応」といい、認知症の治療やケアに携わる人の間では、とても良く知られた反応の1つだ。
取り繕い反応に関しては、これまでに数多くの研究が行われている。しかし、それらの報告のほとんどが医師や看護師、臨床心理士などの経験や印象に基づくもので、実証性に乏しいものだった。
そこで今回、研究グループは、アルツハイマー病患者107人、脳血管障害を有するアルツハイマー病患者16人、レビー小体型認知症患者30人、認知症の前段階である軽度認知機能障害者55人について、認知機能検査の際に見られる取り繕い反応を、先行研究の定義に基づいて評価し、出現頻度を比較した。
その結果、アルツハイマー病患者では57.9%に取り繕い反応が見られ、レビー小体型認知症や軽度認知機能障害の人と比較して明らかに多いことが示された。さらに、性や推定罹病期間、認知機能と前頭葉の機能に関する検査の結果で偏りが生じないようデータを微調整したところ、アルツハイマー病患者では、レビー小体型認知症の4.24倍、軽度認知機能障害の3.48倍、取り繕い反応が多かった。
研究グループは、「取り繕い反応は、認知症になった自分を何とかしてよく見せようとする行動であり、そこにはさまざまな心理的葛藤が関与していると思われる。本研究が正確な診断や、より良い医療とケアの確立につながることを期待する」とコメント。さらに、「アルツハイマー病の方の心理的葛藤に配慮し、認知症を患っても以前と変わらぬ生活が送れるよう支援することが重要だ。そのために、本研究の知見が役立つだろう」と付け加えた。
(あなたの健康百科編集部)