「乾癬」は「感染」しない!
2018年10月18日 06:00
乾癬は根治療法が見つかっていない慢性の皮膚疾患であり、日本では50〜60万人がこの病気で苦しんでいると言われている(関連記事:「アンジェリカさん『乾癬、告白してよかった』」、「乾癬という病気を知ってる?」)。「カンセン」という言葉の響きから感染症と誤解されることも多く、世界保健機関(WHO)は認知度を高めることで誤解を解消することができると提言している。製薬企業のヤンセンファーマは、乾癬の啓発を目的としたプロジェクト「HIKANSEN project(ヒカンセンプロジェクト)」を立ち上げ、そのキックオフ・イベントとして、アートイベント『ふれられなかったにんげんもよう展』が10月5日(金)〜7日(日)に東京ミッドタウンで開催された。
アンジェリカさんの告白により乾癬の認知度が向上
10月5日(金)に行われたオープニングセレモニーでは、医師の立場からNTT東日本病院皮膚科部長の五十嵐敦之氏、患者の立場からINSPIRE JAPAN WPD乾癬啓発普及協会理事の山下織江さんが登壇した。また、昨年5月に乾癬患者であることを告白して大きな話題となり、今回、ヒカンセンプロジェクトのアンバサダーに就任した道端アンジェリカさんの就任式が行われた。
トークセッションでは乾癬について五十嵐氏が解説。日本の乾癬患者の割合は0.4〜0.5%で、欧米の2〜3%と比べて低いものの、生活習慣の変化などにより増加傾向にあるという。日本人における男女比は2:1と男性が多く、発症年齢は思春期から中年以降と幅広いが、男性は50代、女性は20代と50代に多くみられる。
主な症状は頭皮や生え際が赤くガサガサとなる皮疹や、皮膚が銀白色のかさぶた状となって剥がれ落ちる鱗屑、落屑があり、肘や膝などの物理的刺激を受けやすい部位に現れることも多い。広い範囲に赤い皮疹ができる紅斑も特徴的な症状である。同氏は「見える部位に症状が現れやすいことが、この病気の大きな問題点の1つです」と解説した。治療については塗り薬(外用療法)、光線療法、飲み薬(内用療法)があり、近年は生物が合成するタンパク質から作られた薬剤(生物学的製剤)を注射する治療法が注目されている。
山下さんは乾癬に対する理解度が患者の心情に与える影響について「乾癬患者は半袖のシャツを着るという当たり前のことができません。しかし、学生時代に留学していた米国では、乾癬に対する理解が進んでいたため、気にすることなく半袖のシャツを着ていました」と、自身の体験を踏まえて説明した。昨年のアンジェリカさんの告白については、「患者会でも大きな話題となり、患者会への問い合わせも増えました。『アンジェリカさんをきっかけに乾癬という病気を知った』と言われることも多く、乾癬の認知度が向上したと実感しています」と語った。
アンジェリカさん「乾癬を告白してよかった」
続いて登壇したアンジェリカさんは「乾癬の症状が出たのは5年ほど前でしたが、当時は乾癬という病気を知りませんでした。あるとき、大好きな海外のタレントが乾癬患者であることを知り、それをきっかけに自分が乾癬患者であることに気づきました」と語った。しかし、当時は乾癬患者であることを周囲に隠しており、乾癬の症状については「ヘアブリーチで頭皮が傷んでいる」「トレーニングで肌がアザになっている」などと説明していたという。そんなごまかしに疲弊し、悔しい思いを募らせていく中で、乾癬を告白して自分の心を解放したいという思いが強まり、SNSの投稿につながったという。
告白後は「水着を着る仕事や、肌を見せる仕事がなくなるのではないか」「乾癬患者と一緒に仕事をしたくないと思われるのではないか」と不安になったそうだが、数多くの励ましや乾癬患者からの感謝のコメントをもらえたことから、告白してよかったと感じているという。「乾癬は感染する病気ではなく、不潔だから発症する病気でもありません。こうした点を少しでも理解してもらうことで患者の心は晴れ、前向きに生活することができます。イベントなどを通じて乾癬のことを伝えていけるよう頑張ります」と、アンバサダーとしての意気込みを語った。また、乾癬患者に向けて「治療の選択肢も広がっており、専門医に相談してライフスタイルに合わせた治療方法を選べる時代になりました。乾癬患者は1人ではなく多くの仲間がいます。前向きな気持ちで生活してほしい」とエールを送った。
カメラのストロボにより乾癬の皮膚症状を可視化
『ふれられなかったにんげんもよう展』では、電車、美容室、会議室、寝室という日常のシーンが切り取られている。一見するとなんでもないシーンに見えるが、カメラのストロボをたいて撮影することで、乾癬の皮膚症状を表現した模様が浮かび上がってくる(図)。
図 わたしだけが置き去りにされている
偶然席が空いている電車内のように見えますが、この作品は乾癬患者さんの心に映る光景を描いています。他人の視線を気にしてしまうがあまり、実際は避けられているわけではないのにもかかわらず、避けられていると思い込んでしまう。そうやって自分を精神的に追いつめてしまうことがあるのです。
展示について五十嵐氏は「患者さんの日常生活の悩みを、あらためて知らされた思いがします。これまで皮膚科医として乾癬の啓発活動を行ってきましたが、なかなか浸透せず歯がゆい思いをしてきました。今日は多くのメディアの方に来ていただき感無量です」と述べた。山下さんは「東京ミッドタウンという華やかな場で、乾癬について語ることができてとてもうれしいです。患者さんの日常生活や心の悩みが、アートにより表現されていて感動しました」とコメントし、さらに「10月28日(日)〜29日(月)に東京タワーで乾癬患者による乾癬啓発イベント『INSPIRE JAPAN WPD 2018』を開催するので、ぜひお越しください」と呼び掛けた。
(あなたの健康百科編集部)