大麻は精子に悪影響
2019年01月17日 06:00
日本では、医療・娯楽目的に関わらず使用・所持が法律によって禁止されている大麻(マリファナ)。カナダでは2018年に医療だけでなく娯楽用大麻の所持が合法化され、米国では医療用大麻の合法化(一部の州では娯楽用大麻の販売も合法化)が進み、大麻由来の成分を含むてんかん治療薬も承認されている。また大麻が持つ代謝改善作用は、生活習慣病の予防に一定の効果を示すといった報告もある(関連記事)。こうした大麻解禁による使用者の急増を受け、あらためて大麻の活性成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)が人体に与える影響を調べる研究が盛んに行われている。今回、米・デューク大学の研究グループから、やはり大麻の使用はリスクになるとの結果が、英国の医学誌Epigenetics(2018年12月6日オンライン版)に発表された。
米国では若者の32.2%が大麻を使用
大麻は世界中で1億8,000万人以上が使用しているといわれている。米国では、この20年間で大麻の使用と有効性をめぐる状況が劇的に変化し、半数以上の州で合法化され、9つの州と首都ワシントンD.C.では娯楽目的の使用も認められている。
米国薬物使用健康調査(NSDUH)の2015年の報告によると、18~25歳の米国人で1年以内に大麻を使用した経験がある割合は32.2%で、1カ月以内に使用したとの回答は19.8%に上った。この割合は男性でより高く、それぞれ36.0%、23.4%だった。
米国人男性が最初の子供を持つ年齢は平均27.4歳なので、この調査結果から生殖年齢の男性の相当数が大麻の使用経験があると考えられる。しかし、大麻に含まれるTHCが生殖機能に与える影響を調べた研究のほとんどは、大麻使用経験がある母親から生まれた子どもに関するもので、THCと男性の生殖機能との関係についてはよく分かっていない。
大麻使用者と非使用者で尿や精子の違いを検討
そこで研究グループは、THCが男性の生殖機能に与える後天的(エピジェネティック)な変化を調べる目的で 米国人男性24人(大麻使用者と非使用者各12人)を登録、 尿と精子を分析・検討した。過去半年間に週に1回以上使用している人を使用者、過去の使用経験が10回以下の人を非使用者と定義した。
使用者と非使用者で年齢、人種、身長、体重、知能指数(IQ)などは同等だった。1週間の飲酒量が使用者でやや多かったものの、どちらもアルコール障害と判定される人はいなかった。尿に含まれるTHC濃度の平均は、使用者では補正前が260.8ng/mL、より正確な値を示すクレアチニン補正後が329.8ng/mL、非使用者ではどちらも0.0ng/mLであった。
精液を採取(射精)してから分析するまでの時間、精液のpHと量、精子の運動性や形態に使用者と非使用者で差はなかったが、使用者では精液1mL当たりの精子濃度が低かった。
使用者では精子のDNAメチル化に異常
次に研究グループは、使用者の精子をより詳しく調べるためDNAメチル化について検討した。DNAメチル化とは、各種の細胞をつくり出す際に不要な遺伝子の働きを抑えて身体を正常に保つ仕組みのこと。メチル化に異常が起こると、必要な遺伝子の働きが抑えられたり、逆に抑えるべき遺伝子の働きを促進してしまう場合がある。がん細胞では、DNAのメチル化に異常があることが分かっている。
検討の結果、THCは2つの細胞経路(パスウェイ)で精子のDNAメチル化を変化させていることが分かった。1つは体の器官が完全な大きさに成長するのを補助する経路で、もう1つの経路は発育期の成長の管理に関する多数の遺伝子を含んでいた。幾つかのがん細胞では、この2つの経路に調節異常が起こることが知られているという。こうした精子のDNAメチル化異常は、尿中THC濃度が高い人ほど多かった。
子どもが欲しい男性は6カ月前に使用中止を
研究グループは「今回の研究は、少数の男性を対象に6カ月という短い期間で行ったものであり、栄養状態や飲酒、睡眠、ライフスタイルなど、他の要因が結果に影響しているかもしれない」と断った上で、「THCが男性の生殖機能を完全に奪うことはなくても、精子の遺伝子発現プロファイルになんらかの影響を及ぼす可能性は否定できない。現時点でDNAメチル化異常が子どもに受け継がれるかどうかは明らかでないものの、こうした関係がはっきりするまで、子どもが欲しい男性は予防措置として少なくとも6カ月前に大麻の使用を中止すべきだ」と呼びかけた。
さらに「大麻の合法化が進めば、生殖年齢の男性が使用する機会は増加すると思われる。大麻使用と精子のDNAメチル化異常の関連について、今後もより多くの研究者と協力して検討を続けていく」と述べている。
(あなたの健康百科編集部)