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女性の方が怖がり?

 2019年03月13日 06:00

 ヒトや動物は恐怖や不安を感じるとドキドキして心拍数が上昇し、その場から逃げ出そうとしたり、物陰に隠れようとしたりする。危険を感じる状況でのとっさの判断やストレスを緩和するための反応は、脳内にある扁桃体と分界条床核(BNST)と呼ばれる神経の集まりがコントロールしている。東北大学大学院情報科学研究科教授の井樋慶一氏らは、恐怖や不安に対応する脳の神経の大きさやストレスホルモンの発現には男女差があることを発見。その結果を、米国の医学誌Biology of Sex Differences2019; 10: 6)に報告した。

不安障害やうつ病には、ストレス反応の機能不全が関連

 近年、精神疾患の中でもパニック障害や心的外傷後ストレス障害などを含む不安障害の患者が増加傾向にあり、特に女性で多い傾向が見られる。不安障害の発症には、身体的な要因や心理・社会的要因が関連するとされていたが、最近の研究から脳内の神経伝達物質が関係する機能不全が有力視されている。

 その1つとして、ストレスに対する反応である視床下部−下垂体−副腎皮質(HPA)系の機能不全がある。HPA系とは①ストレス刺激が視床下部の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を活性化②下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌を促進③副腎皮質からコルチゾルを放出−という一連のホルモンの働きのこと。

 通常、コルチゾルの分泌量が増えると、脳の海馬、視床下部、下垂体に存在するコルチゾルと結合する受容体(グルココルチコイド受容体、ミネラルコルチコイド受容体)がCRHやACTHの合成・分泌を抑制してコルチゾルの分泌量を抑制し、ストレスが緩和される(負のフィードバックという:図1)。しかし、HPA系の活性化が繰り返され負のフィードバックが機能不全に陥ると、過度のコルチゾルに曝された神経細胞が萎縮したり、免疫力が低下したりするため、不安障害やうつ病、がんなどの発症に関連すると考えられている。

図1. HPA系と負のフィードバックのイメージ

不快感を引き起こすホルモンの感じ方には男女差がある

 一方、恐怖や不安に関する情報は、脳内の扁桃体というアーモンド形の神経細胞の集まりで処理され、BNSTによってコントロールされている(図2)。これまでにラット(大型のネズミ)を使った2件の実験から、不快な感情の発生にはCRHの働きが関与すること、CRHを感じ取る能力(感受性)には男女差があることが明らかにされている。

図2. ネズミの脳

 1件目の研究は、北海道大学大学院薬学研究院教授の南雅文氏らによるもので、痛みなどの刺激が加わるとラットのBNSTでCRHの働きが強まり、不快神経の活動が活性化して不快感が引き起こされることを報告している

 2件目は、米・フィラデルフィア小児病院のグループによるもので、ラットがCRHを感じ取る能力(感受性)には男女差があり、オスは①CRHの感受性が弱く、低レベルの刺激ではHPA系が活性化しない②ストレスが持続すると内包化という現象が起き、CRHの感受性が鈍ってストレスが緩和される一方、メスは①CRH感受性が強く、低レベルの刺激でHPA系が反応する②ストレスが持続しても内包化が起きないため、ストレスが緩和されにくいことを報告している。また、CRHの発現には女性ホルモンの一種であるエストロゲンが関与し、エストロゲンはストレスを強める方向に働くことも示唆されている。

 しかし、こうした男女差がどうして起きるのかは明らかでなく、脳内でCRHを含む神経細胞がどのように分布しているのかも分かっていなかった。

CRHの発現には女性ホルモン、制御には男性ホルモンが関係か

 そこで、井樋氏らはマウス(小型のハツカネズミ)のCRHを含む神経細胞を可視化する新技術を開発。BNSTの神経細胞の大きさ(容積)と神経細胞の数に男女差があるかについて検討した。

 その結果、BNSTの後方(主核)の容積はオスで大きかったのに対し、前方(核背外側核)の容積はメスで大きく、CRHを含む神経細胞の数もメスの方が多いことが分かった。さらに、卵巣を除去したメスではCRHを含む神経細胞の数が著しく減少し、精巣を除去したオスでは逆に増加したため、CRHの発現には女性ホルモンのエストロゲンが、制御には男性ホルモンのアンドロゲンが重要な役割を果たしていると考えられた。こうしたことが明らかになったのは、今回が初めて。

 同氏らは「今回、不安や恐怖に関する情報を処理する神経細胞の中にメスで大きな領域があること、ストレスホルモン(CRH)の発現もメスで多いことが分かった。こうした神経構築やストレスホルモンの男女差に関する研究が進展することで、女性に増加している不安障害の解明につながることを期待する」と述べている。

(あなたの健康百科編集部)

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