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「第六の味覚」論争に有力な手がかりを発見

 2019年03月22日 06:00

 ヒトの味覚には、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の「五大基本味」が存在することが知られている。5つの中で最も新しい「うま味」を発見したのは、日本人の池田菊苗氏。1907(明治40)年に昆布の煮汁からグルタミン酸を発見して「うま味」と名付け、翌年に特許登録された。世界的にも「UMAMI」として知られ、特許庁が「日本の十大発明」の1つに挙げるほどの出来事であった。うま味の発見後、世界各地で「第六の味覚」を探る研究が盛んに行われ、これまでに幾つかの候補が挙げられたものの、いずれも決め手に欠けていた。今回、そのうち「脂肪味」に関する有力な手がかりを九州大学五感応用デバイス研究開発センター特任准教授の安松啓子氏らが発見。欧州生理学連合の公式学術誌Acta Physiologica2018; 30: e13215)に発表した。

「第六の味覚」をめぐるこれまでの論争

 新たな味覚をめぐっては、「から味」「渋味」から、果ては「電気味」まで、これまでにさまざまな学説が提唱され、世界的に議論を呼んできた。

 中でも有力視されているのが「脂肪味」で、2005年に京都大学教授(現・龍谷大学教授)の伏木亨氏が「脂肪が美味しいと感じるのは、CD36という受容体が関係している」というハツカネズミ(マウス)の実験結果を発表。2010年には、オーストラリア・ディーキン大学のR. Keast氏らが①31人の被験者は異なる濃度の脂肪酸の味を感じることができた②44人の被験者において脂肪の味を感じる能力と体重に関係があった−と報告。2015年には米・パデュー大学のC. Running氏らが、102人の被験者が脂肪酸と別の味を区別することができたとして、第六の味覚「オレオガスタス〔Oleogustus:Oleo(油、オレイン酸の意味)+Gustus(ラテン語で味覚の意味)〕」と呼ぶことを提案している

 それに対し、「いやいや、第六の味覚はカルシウム味だ」という説もある。2008年に米・モネル化学感覚研究所のM. Tordoff氏らが、マウスの口内にはカルシウムに対する味覚受容体が存在し、舌にはカルシウムを味わう遺伝子が存在する可能性を指摘。この遺伝子はヒトにもあることから、ヒトも「カルシウム味」を認識できるのではないかと主張した。さらに、昨年(2018年)には韓国・国民大学校のY. Lee氏が、ショウジョウバエはカルシウムの味を区別できるとの実験結果を公表している

 一方、2016年には米・オレゴン州立大学のT. Lapis氏らが22人の被験者を対象に、炭水化物を溶かした液体の味が区別できたとの研究結果を報告。被験者たちは「白米、小麦粉、パスタ、パンみたいな味がした」と回答したことから、「デンプン味」こそ第六の基本味だとして、「Starchy(デンプンの意味)」と命名している

 しかし、これらの研究はいずれも少数のヒト・動物が「第六の味覚」の候補となる味(脂肪、カルシウム、デンプン)を感知したり、別の味(甘み、苦味など)と区別することができるかを調べたものや、味覚に影響を与える受容体、遺伝子が存在する可能性を示唆したもので、独自の味が存在することは証明できていなかった。

マウスの神経を細かく裂いて検討

 そこで安松氏らは、顕微鏡をのぞきながら特殊な器具で行う超微細手術、マイクロサージェリーの技術を駆使し、マウスの味蕾(味覚を感じる器官)細胞の神経を細かく裂いて、味を感知する性質について検討した。

 その結果、鼓索神経とよばれる場所には、脂肪酸に特有の反応を示す神経線維が約20%含まれていることを発見した。この神経は、GPR120受容体発現細胞(ヒトやマウスでの肥満の原因遺伝子として知られ、脂肪酸に最も強い反応を示す)とつながっていた。さらに、甘味やうま味に反応する神経の半分以上が脂肪酸に反応することも分かった。

 同氏らはこの発見を裏付けるため、GPR120遺伝子が働かないように遺伝子を組み換えたノックアウトマウスと呼ばれるマウスで検証。すると、ノックアウトマウスでは脂肪酸を感知する神経の数が激減し、脂肪酸の一種であるリノール酸とうま味物質のグルタミン酸の区別が付かなかった。このことから、脂肪酸独自の味を感知するシステムには、GPR120が重要な役割を果たしていることが明らかになった()。

図. マウスの味蕾とGPR120ノックアウトウスのイメージ

(九州大学プレスリリースを基に作成)

食品開発などへの活用に期待

 ヒトが特定の味をどのように認識し、その味がする食物に含まれる成分が身体に及ぼす影響や効果を知ることができれば、病気の診断や予防、健康食品の開発などに役立つ可能性がある。実際、うま味については、塩の代わりにうま味成分を使った減塩食による生活習慣病対策、唾液分泌を促す作用を利用したドライマウス改善など、医療への応用が進んでいる。

 安松氏らは「今回、生体には脂肪酸を感知するシステムが備わっていることを発見した。このシステムは、脂肪酸が体内でさまざまな効果を発揮し、健康を保つことを期待して選択的に取り込む手がかりになっている可能性がある。今後は、摂食行動・消化吸収との関連の解明や、食品の開発に大きな影響を与えることが期待される」としている。

(あなたの健康百科編集部)

【関連リンク】

●特許庁「十大発明家」※こちらのリンクはただいま無効中です。

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