院内感染予防には患者も手洗いの徹底を
2019年05月20日 06:00
医師が患者や医療スタッフに病原菌が伝染するのを防ぐために行う、アルコール消毒や石けんで手首まで念入りに手洗いする手指衛生は、医療関連感染を予防する重要なアプローチとして広く認識されている。しかし、この取り組みは患者にも広げる必要があることが、多くの抗菌薬に耐性を持つ細菌"スーパーバグ"を検討した研究から示された。米国ミシガン大学の研究チームがClin Infect Dis(2019年4月13日オンライン版)に発表した。
入院患者の手や鼻、病室内の細菌を検査
スーパーバグ、すなわち多剤耐性菌の伝播において、医療従事者の手指を介した感染リスクは広く知られており、多くの研究が行われてきた。しかし、患者の手指衛生の重要性については最近ようやく知られ始めたところで、不明な点も多い。
研究チームは、入院患者の手指および患者が病室で触れる頻度が高い物品について、多剤耐性菌の感染の状況を明らかにする目的で2017年2~7月に研究を行った。対象として、米ミシガン州南東部の2施設の総合内科病棟に入院し、病室に到着後24時間以内の患者(18歳以上)を登録した。
患者の利き手のてのひら、指、爪の周囲、両方の鼻孔から、綿棒で微生物の検体を採取した。患者が病室で触れる頻度が高い物品6点(ベッドのコントロールボタン/手すり、ナースコールのボタン/テレビのリモコン、ベッドサイドテーブル、電話機、便座、浴室のドアノブ)の表面からも検体を採取した。これらの検体は、入院時(病室到着から24時間以内)、3日目、7日目、その後は週1回、退院まで採取した。
入院時に患者の14%に多剤耐性菌が存在
399例(平均年齢60.8歳、男性48.9%)が登録され、研究チームは検体の採取に計710回訪問した。解析の結果、入院時に56例(14%)で多剤耐性菌が検出された。検出された部位は、40例(10%)が手指、30例(7.5%)が鼻孔、14例(3.5%)が両方だった。検出された多剤耐性菌の内訳は、32例(57%)がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、20例(36%)が耐性グラム陰性菌(RGNB)、8例(14%)がバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)だった。
病室で患者が触れる頻度が高い物品から採取した検体では、入院時に29%で多剤耐性菌が検出された。検出された多剤耐性菌の内訳は、15%がRGNB、8.5%がMRSA、8%がVREだった。入院時は多剤耐性菌が検出されず、入院中に新たに手指から多剤耐性菌が検出された患者は14例(6.2%)、病室内の物品から新たに多剤耐性菌が検出されたのは21.8%となった。
さらに研究チームは、患者の手指のMRSA株と病室の物品から検出されたMRSA株がほぼ全例で適合することを確認した。この結果により、物品から患者への感染と患者から物品への感染の両方が起こっていることが示された。ただし、伝播の方向は識別できず、患者が触れた物品にMRSAが伝播したのか、その逆であるかは不明である。
患者の手指衛生の手順を定める必要
研究チームは、患者から検出された多剤耐性菌の多くが入院初期に病室内でも認められたことから、菌の伝播が急速に起こっている可能性を指摘。また、「多くの患者は病室に到着する前に救急処置室や検査部門を経由しており、これらの場所でも多剤耐性菌の生態を検討することが必要である」と注意を促している。
さらに、「多くの患者は回復の過程でベッドから起きて歩行することを勧められ、検査や処置を受けるために病院内を移動し、病室の内外でさまざまな物品に触れていることも考慮しなければならない」とし、「病原体の伝播と医療関連感染を減らすには、患者の手指衛生の手順を定める必要がある」と述べている。
(あなたの健康百科編集部)