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歩く速さで高齢がん患者の予後を予測

 2019年07月09日 06:00

 近年、高齢者の寿命を予測する指標として歩く速さが着目されている。米国ハーバード大学公衆衛生大学院のMichael A. Liu氏らは、高齢の血液がん患者を対象とした研究で、歩行速度の低下は、寿命、予定外の入院、救急外来受診などの予測に有用であることが分かったと、Blood (2019年6月5日オンライン版)で報告した。

高齢期の全身機能低下は寿命と関連

 年齢を重ねると心臓や肺、脳などの全身機能が徐々に衰え、筋力や活動量も低下する。このような状態をフレイルといい、①体重減少②歩行速度の低下③握力の低下④疲れやすい⑤身体活動レベルの低下―のうち3つの症状が認められる場合、フレイルと診断される。

 フレイルは、寿命や将来の身体機能を推定する指標として重視されており、血液がん患者では、薬剤の効きやすさや副作用の発現頻度、死亡などと関連することが知られている。米国臨床腫瘍学会(ASCO)や全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)は、高齢がん患者の定期健診でフレイルの評価を行うよう推奨しており、日常診療で適切かつ簡便に評価する方法が求められている。

歩行速度により適切かつ簡便に予後を予測

 Liu氏らは、高齢血液がん患者の予後(寿命、身体機能、予定外の入院など)を予測する方法を検討。フレイルを評価する指標として歩行速度や握力に着目し、患者の予後に関わる指標(生存状況、予定外入院および救急外来受診の有無)との関連を解析した。

 2015年2月1日~17年10月31日に米国の血液がん専門診療所を初めて受診した75歳以上(平均年齢79.7歳)の患者448人を対象に、4mの距離を歩く速度と握力を測定し、最終来院日から少なくとも6カ月(平均13.8カ月)の生存状況を追跡した。314人については、国際基準(ECOG)に基づく日常生活の制限度や予定外の入院、救急外来受診の有無についても評価した。

 その結果、全患者における平均歩行速度は0.73m/秒、平均握力は24.6kgであった。追跡期間中に患者の24.6%が死亡し、予定外入院率は19.1%、救急外来受診率は16.8%であった。
 これら3つの指標と歩行速度および握力との関係を解析したところ、歩行速度が0.1m/秒遅くなるごとに、死亡率、予定外入院率、救急外来受診率はそれぞれ22%、33%、34%上昇した。また、握力が5kg低下するごとに死亡率は24%上昇した。一方、握力と予定外入院率および救急外来受診率との間に、相関は見られなかった。
 歩行速度と死亡率、予定外入院率、救急外来受診率との関連は、患者の年齢やがんの悪性度、血液がんの種類、日常生活の制限度にかかわらず一貫して認められ、歩行速度は高齢血液がん患者の予後を予測する指標として有用であることが示唆された。

 この研究で採用された4m歩行テストは、ストップウオッチと平らな歩行コースがあれば簡単に実施でき、1分程度で完了する。そのため、6分間歩行テスト(6分間直線コースを歩いて往復した距離を測定する)などの既存の歩行テストよりも患者への負荷が少ない。今後、さらなる検討により歩行速度が高齢血液がん患者の生命予後の予測法として確立され、ウエアラブルGPSシステムにより患者の歩行速度をモニターできるようになれば、より適切なタイミングで患者に最適な治療を施し、寿命の延長が望めるかもしれない。

(あなたの健康百科編集部)

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