毒ヘビにかまれないためには?もしかまれたら?
2019年08月22日 06:00
毒ヘビは日本全国に生息しているため、毒ヘビにかまれる人は多い。日本蛇族学術研究所主任研究員の堺淳氏は「毒ヘビ、特にマムシにはかまれないように注意が必要。もしかまれてしまったら、早めに病院に行くべき」と第41回日本中毒学会(7月20〜21日)の市民公開講座で述べた。
毒ヘビを見た目で見分けるのは困難
国内でも沖縄県にはハブを筆頭に毒ヘビが多く生息し、無毒のヘビの種類も多い。九州以北では沖縄よりヘビの種類は少なく、毒ヘビはニホンマムシ、ツシママムシ、ヤマカガシの3種類、無毒のヘビもアオダイショウ、シマヘビ、ジムグリ、ヒバカリ、シロマダラ、タカチホヘビの6種類。民家周辺で見られるのはほとんどがアオダイショウだという。
気を付けないといけないのは毒ヘビのマムシである。堺氏は「毒ヘビの見分け方について尋ねられることは多いが、一般の人には見た目だけで見分けるのは難しい」と述べた。同じマムシでも茶色、赤茶色、模様が黒いもの、模様がほとんどないもの、全身真っ黒のものなど、さまざまな色彩のものがいる(写真1)。
写真 1. ニホンマムシの色彩の例
ヤマカガシも国内の代表的な毒ヘビである。ヤマカガシは生息地域によっても色彩が異なり、やはり見た目だけで見分けるのは難しいという(写真2)。また、親と子でも体色や模様が異なるヘビも多い。同氏は「とにかく、ヘビには手を出さないことが重要だ」と指摘した。
写真 2. ヤマカガシの色彩の例
アオダイショウにかまれても、自宅で消毒しておけば多くの場合病院に行く必要はない。しかし、アオダイショウの子ヘビはマムシと間違われることがしばしばあり、「マムシにかまれた」と病院に行き、切開されてしまった人もいるという。同氏は「かまれたヘビの種類が分からない場合は、日本蛇族学術研究所に早めに連絡してほしい。見た目でヘビの種類は判別できないと思っておくべき」と呼びかけた(関連リンク参照)。
ジムグリやシロマダラ、ヒバカリ、タカチホヘビなどはあまり見かけることはなく、万が一かまれても病院に行く必要はないという。
夏にかまれることが多い
マムシにかまれるのは4〜10月で、特に7〜9月が多い。マムシは夜行性というわけではなく、春秋は主に昼間、夏は夜にもよく活動している。マムシは小型(全長40〜60cm)のため、攻撃距離は30cmほどで、農作業中や昆虫採集、捕まえようとしたときなどにかまれることが多く、かまれる場所はほとんどが手の指や足(足首より下)である。
ヤマカガシにかまれるのは、捕まえようとしたときや捕まえて扱っているときに手の指をかまれるケースがほとんど。また、ヘビも水を飲むため、河川付近ではマムシもヤマカガシも見られ、そのような場所にはサンダル履きで入らず、草むらに手を突っ込まないことが重要。
落ち葉の中にいるマムシは、目の前にいてもほとんど分からない。また、かまれてもヘビの姿が確認できないことも多く、昼間でも何にかまれたのか分からないこともある。堺氏は「ヤマカガシにかまれるのは、自分から手を出した場合である。マムシのように近づいただけでかまれることはほとんどない」と述べている。
ヘビにはむやみに手を出さない!
マムシの牙は口の前方にあり、5mmほどで非常に細い(写真3-左)。咬まれた瞬間もチクッとする程度で、針で刺したような小さな傷しか残らないため、ヘビの姿を見ていないと虫に刺された、または棘が刺さったと勘違いする人もいる。堺氏は「そのため、すぐに病院に行かないことが問題になる」と指摘した。
ヤマカガシは全長150cmの大型のものでも牙は2mmほどと小さく、口の少し奥にあり、マムシのように管状になっていないため咬まれても一瞬なら毒は体内に入らない(写真3-右)。ヤマカガシに咬まれて毒が体内に入るケースは、数秒以上咬まれた場合だという。無毒のヘビ(アオダイショウやシマヘビ)には牙がなく、これまでに国内では、無毒ヘビに咬まれて感染症を起こしたケースは報告されていない。同氏は「咬まれても自宅で消毒しておけば大丈夫」と述べた。ただし、歯が皮膚内に残ることがあり、そのような場合は化膿することもあるため、痛みが続くようなら病院で診てもらう必要がある。
図 3. ニホンマムシとヤマカガシの牙の違い
(写真1〜3とも日本蛇族学術研究所提供)
マムシに咬まれても針で刺したような小さな傷が残るだけだが、徐々に腫れてくる。指先を咬まれても肩の方まで腫れたりもする。まれに咬まれた指が壊死を起こす場合もある。同氏は「マムシは小型の割に毒が強いため、とにかくむやみに手を出さないようにすることが重要」と述べた。
マムシに咬まれて重症になると後遺症が残るケースもある。同氏は「毎年必ず、子供が手を出して咬まれるというケースがあり、ほとんどが小学生の男児である。爬虫類好きの子供は多く、興味を持つのはよいことだが、絶対に手は出さないこと」と注意した。
ヤマカガシの首の毒が目に入る事故も
2017年には、ヤマカガシ咬傷による重症例が1週間に2件発生し、いずれも小学生の男児であった。ヤマカガシは咬んだまま離れないことがある。離れないだけでなく、その間に何度も咬むため体内に毒が入る。痛みや腫れはないため、すぐに病院に行って検査しても毒が入っているかどうかは分からない。
またヤマカガシは、天敵のイタチやタヌキなど他の動物から身を守るため、首の皮下にも別の毒を持っている(頸腺)。天敵動物などがかみ付くと毒腺部分の皮膚が破れて毒液が飛び散り、毒液が口の中に入り苦しむことになる。人が棒でたたいたり鎌で斬りつけたりした際に毒液が目に入る事故がしばしば起きている。ヤマカガシにかみ付いたイヌが死んだケースもある。毒液が目に入ると炎症を起こし、強い痛みを感じる。すぐに水で洗い流し、眼科で治療する必要がある。
ヤマカガシの餌はカエルで、毒のあるヒキガエルも食べることができる。堺氏は「ヒキガエルは毒を持つため他の動物やヘビも食べないが、ヤマカガシだけは大好物。ヒキガエルを食べて、その毒を利用している(作用は似ているが、毒の構造と色は変わる)」と説明した。
マムシはハチに次いで死亡が多い
日本国内での有毒生物による死亡例で、最も多いのはハチによるもの。日本にはハチ以外に人が死ぬような有毒の昆虫はほとんどいない。夜間や草むらなどでマムシにかまれても姿が確認できない場合、虫刺されと勘違いする人がいる。
マムシにかまれた場合は腫れや痛みが出るが、ヤマカガシでは腫れや痛みはほとんどない。しかし、時間が経過してから歯茎やかまれた傷などから出血が起こったり、消化管など全身性の出血も起こる。ヤマカガシにかまれて死亡した人はこれまでに4人確認されているが、そのうち3人は脳内で出血を起こしたケースだという。
堺氏は「この時期、特に子供は昆虫採集や川に遊びに行く機会も多いと思うが、ヘビを見つけても絶対に手を出さないでほしい。マムシやヤマカガシにかまれてしまった場合には、すぐに病院に行くように」と重ねて注意した。
<ヘビにかまれたときの応急処置>
・ヘビやかみ傷を確認する(携帯やデジカメで写真を撮り、メールで送って判別)
・マムシ咬傷の疑いがあれば、指輪や腕時計を外す
・吸引器で吸引するか指で強くつまんで毒を絞り出す
・慌てずに患者はできるだけ安静にして、車などで病院に運ぶ。または救急車を呼ぶ
・ヤマカガシ咬傷の疑いがあれば、日本蛇族学術研究所に連絡(血清が保管してあるのは全国で10カ所)
<かまれないようにするためには>
・昆虫採集やホタルの観察などに行くときには、必ず靴(できれば長靴)と長ズボンをはく
・昆虫採集のときに、倒れた木の下や石の下には直接手を入れない。川や池の近くではサンダル履きで草むらに入らない
・キノコや山菜採りのときには、周りを棒などでたたいてマムシがいないことを確かめる
・郊外では夏の夜にマムシが庭や駐車場、道路など開けた場所にも出てくるため、明るくする、またはライトで照らす
(あなたの健康百科編集部)