無給医は究極のサービス残業
2019年09月10日 06:00
全国医師ユニオンは、7月13日に東京都で開催したシンポジウムで、大学病院で診療を行っても賃金が支払われない「無給医」の問題について討議した。現在無給医の状態にある医師も出席し、長時間ただ働きの実態を訴えた。文部科学省は6月28日に無給医に関する調査結果を発表し、これまで存在を否定してきた無給医が全国に約2,200人いることを認めている。
同シンポジウムでは弁護士の松丸正氏が、2003年に発生した過労による自動車運転事故で大学院生医師が死亡した「鳥取大学医学部附属病院事件」について報告。事故前2週間の宿直は6回、7日間は徹夜勤務だったという。「病院は、演習の名目で勤務をさせていた」。
無給医は、他の医師と同様に診療のローテーションに組み込まれ、指揮監督下で業務を行っている実態から、研修医よりも「労働者性」が強いと指摘。「病院側は、無給で医師側と合意しているというが、その理屈は通らない。労働実態があるのに対価を支払わなければ、使用者責任が問われるのは当然。無給医は究極のサービス残業である」と語気を強めた。
また、文科省による無給医の確認調査は、大学側の判断で認めたものにすぎないと批判。「厚生労働省が権限を持って実態を反映した調査を行うべき。学位取得や教授との関係で当事者は声を上げられない」と述べた。
教授がキャリアを掌握
同シンポジウムで発言した大学院生の男性医師は、大学病院から支払われる固定収入が月3万円程度。「生活できない」と訴えると、担当教授は「すぐお金、お金と気にし過ぎる」「わがままだ」と一蹴。医師は、生活のために手当が支給される当直勤務を月に14日間こなした。枕元には呼び出し用のPHSが置かれ、医療機器の音や救急車のサイレンでほとんど眠れなかった。「過度の睡眠不足によって飲酒状態よりも低い集中力で診療すれば、医療安全の面からも危険だ」と訴えた。
さらに、「医師としてのキャリアは教授に握られている。大学院生はタイムカードを押さなくてよいと言われ、当直も実働時間ではなく、深夜分だけの記録となっている。これでは大学病院の自浄作用がなくなってしまう」と述べる。
こうした背景には、大学病院の常勤枠が少なく、他学部の収入で赤字を補塡しなければならない経営的な事情があるという。「大学院生を無給で働かせ、お金がかからない労働力が必要なのだろう」と同医師は指摘した。その上で、「無給医は社会インフラを駄目にする。この問題の解決なくして、医師の働き方改革はない」と述べ、無給医をなくそうと呼びかけた。
別の無給医の男性は後期研修中で、片道2時間半かけて通勤している。自己研鑽を目的とするという書面にサインさせられ、賃金も交通費も支給されない。「激務と理不尽な働かせ方で同期の研修医は統合失調症を発症し、仕事を続けられなくなった。先輩も辞めてしまった。文科省が認めた無給医の数は明らかに少ない」と訴えた。
※無給医:大学病院で診療を行っているにもかかわらず、賃金が支払われていない医師。日本では6年制の大学医学部を卒業し、国家試験に合格後、義務付けられた2年間の初期臨床研修(研修医)を経て、医師として働き始める。その後も、研修に従事する後期研修医や専攻医、大学院進学者も少なくない。大学病院はこうした大学院生らに診療を行わせ、自己研鑽や研修を理由に、賃金を支払わない慣習を続けてきた。
(あなたの健康百科編集部)